続きはない  先陣を切るのは、共にパートナーに機動で勝る短刀のさよと薬研だ。  短刀同士でも機動で勝る薬研と、体力と打撃で勝るさよが肉薄する。 (ま、相手の土俵で勝負してやる義理はねえな)  まともに組み合っては分が悪い。薬研はあくまで牽制として短刀を振るうと、癖の悪い足を繰り出した。  少しくらいはあわてさせることができるかと思ったが、しかしさよも然る者。打ち合わせされた剣舞かなにかの様に鮮やかに宙返りをし、薬研の足払いを避けた。  その、宙に浮いて身動きが取れない状態を見逃す薬研ではない。 「うおおおッ」  両手を柄に添えて雄たけびを上げる。そしてさよの着地点目指して駆け寄って。 「薬研!!!」  瞬間、一期の声に焦点がさよからずれた。  空中で体勢を整えて降って来るさよ。その向こうに大柄な影が見えた。 (速いッ)  薙刀を振りかざした巨体。  踏み込みすぎたことを悟った薬研は、あわてて回避行動を取る。  誘われたのだと悟った。さよは敢えて速度を落として薬研と相対し、より自陣に近い位置で薬研を迎い討ったのだ。  四人の中で一番機動に劣る一期は、まだ薬研をフォローできる位置まで来ていない。  銀の軌跡が宙を凪ぐ。  薬研は大きく横に飛び退いた。地面を転がってできる限り距離を取る。立ち止まっては一貫の終わりだ。  そんな薬研とは離れた位置で、甲高い刃の噛み合う音が響いた。 「ぐうっ」  とっさの判断で太刀上げることに成功した一期は、目と鼻の先でギラつく青の炎を見た。  改めて両手に力をこめて太刀を押せば、小柄なさよはあっさりと引いて後ろに飛び退く。  岩融が薙刀を振った瞬間、一期は最悪の結果も考慮した。  しかし、岩融の刃が薬研を裂くことはなかった。岩融の薙刀は、未だ宙にいたさよを捕らえたのだ。  岩融の全霊の一振りを両の足で掴み、さよは勢いよく跳んだ。それは一筋の青い弾丸のごとく、一期に噛み付いた。防御が間に合ったのはまったくの偶然だ。あと一瞬、岩融の薙刀の軌跡の意図に気づかなければ、会心の一撃を食らうことになっていただろう。  なるほど、確かに岩融とさよという一撃必殺に乏しい組み合わせにとって、ある程度統率が高く全能力に優れた一期をどう攻略するかは、もっとも重視されるべき点だろう。  再び一期に向かって地を蹴ったさよに、一期は口角がつりあがるのを感じた。 「今の一薙ぎで薬研を落とさなかったこと、後悔しますぞ!」 手入れチート  結論から述べるなら、少女は見事に石切丸の手入れを完遂した。  石切丸は、傷ひとつなく磨き上げられた自身の刀身を前に、あんぐりと口を上げた。 「できました!」  少女が得意げに胸を張る。  石切丸はヒソヒソとこんのすけに説明を求めた。 「どういうことだい!?」 「こ、こんのすけめにもなにがなんだか」  こんのすけは改めてこの本丸の資源管理状況をモニタする。  各資源は、先ほどの保有数からきっちり石切丸の手入れに必要だった分だけ減っていた。そして、手伝い札の数は変わっていない。  つまり、間違いなく手伝い札なしの手入れが実行されたはずだった。 「なんでこんなに早く手入れが終わったんだい?」 「途中までは普通だったのですう!」  こんのすけは無実をこんこん訴えた。  刀剣男士の怪我とは、霊質の欠損である。本霊から細い縁の糸によって降ろされた刀剣男士は、自力でそれを補う術がない。だから、審神者による手入れが必要なのだ。  刀剣男士を構成する霊質は、本丸運営の要である各種な資材から得ることができる。そもそも資材とは、刀剣男士に合わせた霊質の結晶体なのだ。  手入れでは、まずはじめに刀身に付着した血糊や古い油を綺麗に拭い取る。この時に打ち粉を使う。続いて、手入れの要となる資材の霊質を溶かし出し、それを刀剣男士の欠けた部分に流し込んで埋めてやる。最後に刀身を磨き上げ、錆防止に新しい油を引いてやることで仕上げとするのだ。  今回少女が手入れをするにあたり、はじめの血と油を拭う作業は石切丸自身がした。石切丸は刀剣男士の仲でもかなり大きい方の刀なので、慣れない少女には危険だと思ったのだ。  そもそも、古い油を拭い新しい油を引く手入れは、刀であれば錆防止のために小まめに行うべきものだ。よっぽど重症で動けないということがない限り、大抵の本丸では自分でする作業である。だから、少女はおとなしく石切丸の手入れを見守った。  そして、いよいよ少女の出番がきた。  こんのすけはまず、少女の霊気を慎重に導いて資材を融解させた。いきなりすべてを溶かすわけではない。少女の霊気を見張りながら、まずは極少量を正しい資材比率で霊質へと変えた。それを石切丸の欠けた部分に合うように変容させながら、ゆっくりゆっくりと流し込む。  これが手伝い札を使用した手入れなら、必要量の資材を一気に融解させ、あらかじめ調べておいた欠損箇所の形に合わせて霊質を流し込む。通常の手入れの場合は、資材を一気に溶かすことこそないが、資材融解から穴埋めまでを流れ作業のように繰り返すので、こちらもかなりスムーズに資材の消費が進む。  しかし今回は、手入れ初挑戦の審神者ですらない少女の様子を確認しながらの手入れだ。慎重に慎重を期したこんのすけの補佐の下、最初の資材融解から実際に石切丸の刃に霊質が注がれるまで、優に数分は要した。  一番最初の霊質の注ぎ込みが終わり、石切丸とこんのすけはほっと一息ついた。さすがに、短刀の手入れにすら足りない量の資材では少女の霊気も尽きなかったようで、こんのすけは次の資材に取り掛かろうとした。  その時だ。石切丸の手入れのために必要と用意していた資材が、目の前ですべて融けた。  驚愕の声をあげる間もなく、資材から溶け出した霊質が少女の周囲を渦巻いた。  そしてこんのすけは"視た"。資材から溶け出した形そのままの原質的な霊質が、少女の手元で著しく変容し、石切丸の刀身の傷へと注がれていくのを。  なんだこれはと、こんのすけも石切丸も動揺した。大量の資材を溶かす技も、それを高速で変容させて刀剣の欠損を埋める様も、これはまるで手伝い札を使った時の現象ではないか。  しかもだ。本来手伝い札の消費にはこんのすけが必要だ。手伝い札を消費して大量の資材を一度に溶かし、溶け出した霊質が散って消えてしまわないように手伝い札の結界で手入れ部屋にとどめる。それらには、審神者の霊気を借り受けたこんのすけの補佐が必要なはずなのだ。  それが、こんのすけが驚いている間に、手伝い札も消費せずに成されてしまった。 「ひとつだけわかるのは……」  こんのすけは少女を見上げた。 「彼女はとても器用でいらっしゃるということです」 「器用とかそういう問題かい?」 「しかし、そうとしか表現のしようが!」  そもそも、手伝い札もこんのすけの補助もなしに同程度の手入れをするというのは、原理的に不可能なことではない。  現在、審神者の本分は歴史修正主義者との戦争にある。そして、戦力の要である刀剣男士の顕現ができる能力が最重要視され、ごく一部の戦闘系と称される人物を除き、霊力を操る術を極める訓練を行うことはない。つまり、審神者たちが就任前に学ぶのは、こんのすけや本丸システムの補佐を前提とした必要最低限の霊力の行使なのだ。  そのことをこんのすけは石切丸に説明する。 「つまり、彼女は天性の手入れ能力者ってことかい?」 「いえ、手伝い札に仕込まれた術式は、鍛冶神に仕える一等級の術者がその技術を封じ込めたもの。その理路整然さが彼女の手入れにはありません。  そして、いくら霊力の行使がうまかったとしても、あの霊気の量であれだけの資材を扱える理由にはなりません」 「……つまり?」 「かなり曖昧な説明となりますが、それが彼女の本質なのでしょう」 「本質……変容か!」 「そうです。資材の融解も、刀剣男士に合わせた霊質の変容も、本来ならそれ相応の量の霊気を消費するもの。それを、彼女は触媒でも存在するかのようになでるだけで終わらせてしまう」 「……ということは」  石切丸は、自身の頬に汗が伝うのを感じた。 「多分、刀剣男士様方全員手入れできちゃいますね。このままですと」  石切丸は、十分ほど前のうかつな己の返答を呪った。 祈りの夜明け1  全身をじっとりと包む熱の不快感に、少女の意識はまどろみから浮上した。  起なければと頭のどこかが囁いたが、元々の低血圧がたたり寝汚い方なので、重いまぶたが開かない。覚醒したとは言いがたい状態だったが、じりじりと上がり続ける気温と汗で首筋に張り付いた髪の不快感はひとしおで、少女は二度寝かなわず手探りで目やにをぬぐった。  転がったまま腕を上げて背筋を伸ばせば、さすがに目がさめてくる。少女はあくびをひとつ、腕を頭上に伸ばし、寝ている間に固まってしまった体をほぐした。  あくびを終えた少女が薄目を開ければ、見慣れた青の髪が視界に入った。  少女は大切な家族がいつもどおり隣で寝ていることに顔をほころばせる。そして、瞬いた。見慣れない緑を目に留めたのだ。 「たたみ?」  記憶にある物よりなんだか薄汚れているが、間違いなく畳だ。  自室のベッド以外の場所で目覚めた記憶のほとんどない少女は、見慣れぬ光景に身を起こした。  少女は自身の右手を見下ろす。  そこには少女のものより一回り小さい手が握られていた。それはいつものことだ。  小さな手の主は、少女のかたわらで猫のように身を丸めて寝入っている。少女の大切な家族、さよだ。  少女は、自分たちが畳の上で並んで寝ていたことを知った。どおりで、なんだか少し体が痛いような気がする。やわらかな寝具しか知らない現代っ子は貧弱なのだ。  ただし、少女が頭を預けていた場所には、見覚えのある柄の布が丸めてあった。少年の縹(はなだ)色の髪に影を落としたような暗色の布地に、濃藍の紋様と縁取り。少女にはそれが少年の袈裟だとすぐに知れた。つまりこれは、さよの少女に対する気遣いというわけだ。  しかし、なぜ気遣いが必要な場所に寝ているのか、それがわからない。 「さよ。ねえ、さよ」  寝起きでかすれた少女の声は消え入りそうなほどにか細かったが、さよはパチリと両目を開いた。少女の起床の様子とは、まるで正反対だ。  さよはしなやかな動きで身を起こす。その双眸が、少女を見つめた。 「おはよう」 「……おはよう」  さよの挨拶に、少女はたっぷり二拍は置いて答えた。明らかに、頭に血がめぐっていない。 「体調はどう?」 「悪くはない、と思う、けど」 「けど?」 「……エアコンが恋しい」  公立の小中学校にも冷暖房が完備されるご時勢である。もう一度言うが、現代っ子は貧弱なのだ。  さよは数度瞬くと、慰めるように少女の頭をなでた。そして、丸まっていた袈裟を拾い上げると、慣れた手つきで身にまとう。  少女は周囲を見回した。完全な畳張りの部屋に、やはり見覚えはない。  廊下に面した障子とその向こうの雨戸は、どちらも開け放たれていて、夏の朝の日差しを浴びる草木を臨むことができた。 「ここ、どこ」 「覚えてないの?」  少女は少しの間首を傾げ、そしてうんとうなずく。 「どこ?」  もう一度たずねた少女に、しかしさよは答えず、すっと立ち上がった。 「お目覚めになりましたか」  聞き覚えのない声に、少女は身をすくませた。  開け放たれた障子の先の廊下、少女にとってはさよの向こう側に、人影があった。  大きい。鴨居に頭をぶつけそうなほどの長身だ。少女はポカンと口をあけて、その人物を見つめた。  黒を基調とした和装も、鮮やかな朱の隈取が目を引く端正な顔立ちも、一部のゆがみもなく真っ直ぐ伸ばされた漆黒の髪も。それらすべてがあまりに縁遠く、少女にとってはなんだか作り物めいて見える。  だけど、どこか見覚えがあるような。  ぐるぐると思考する少女の代わりに、さよが口を開いた。 「起きたけど、寝起きで少し混乱してる」 「なんと。それはそれは……」 「だから、もう少し待ってほしい」 「もちろんかまいませんよ」  なんだか少女の知らない場所で会話が進んでいく。  その時、少女の脳裏にひらめくものがあった。  やはり畳張りの、広い広い大広間での出来事だ。そこにたくさんの男の人たちがいて、それぞれがかなり個性的な服装をしていた。彼らは刀剣男士と呼ばれる人ならざる存在で、確か彼らを虐げたどうしようもない人間がいて。それから、それから。  その部屋にいた男たちの中に目の前の男がいたことを、少女はやっと思い出した。 「刀剣男士さん」  声をあげた少女を、長身の男がパチクリと瞬いて見下ろす。 「太郎太刀だよ」  さよが情報を補う。  少女は「たろうたちさん」と復唱した。  不意に少女は立ち上がった。自身と太郎の間に立っていたさよの肩をつかみ、自分の方を向かせる。 「なに?」  首をかしげたさよの頬を、少女は両手で包み込んだ。そのままペタペタとなでまわす。  さよは嫌がる風もなく、少女をじいと見つめた。 「生きてる」 「殺さないでよ」  真面目な表情で呟く少女に、淡々と返すさよ。そんな二人を、太郎は廊下から眺める。  大広間で相対したときはずいぶんしゃんとした少女に見えたが、今は寝起きのせいか、かなりマイペースな様子だ。しかし、さよの平然とした反応を見るに、これが彼女の素の姿なのかもしれない。  そうしてさよの頬をいじり倒していた少女だったが、不意にさよの頭に両腕をまわした。そのまま彼の頭を抱き寄せる。  さよの髪に顔をうずめるようにしてうつむいてしまった少女の表情をうかがい知ることは、刀剣男士の中でも一、二位を争う長身の太郎太刀にはできない。しかし、少女に応えるように彼女の背に回されたさよの手が、ことのほか優しく少女をあやすのを見て、よく見知っていたはずの少年が、本当にひどく遠い存在になってしまったのだなと、太郎は改めて思い知った。 「なんか、いろいろ思い出してきた」 「そう」  少女はさよから身を離し、太郎の方に向き直った。 「なんか予想外に大事になって、本当にスミマセンでした」  うなじが見えるほど深々と頭を下げる少女に、太郎はとまどう。  確かに、少女の襲来は様々な物をもたらした。呪いの気配がすっかり失われた離れ屋敷。分厚い雲の吹き払われた清々しい夏空。そしてなにより、みんなの心に重くのしかかっていた『彼』の開放。余波で少しばかり庭がボロボロになってしまったが、そんなものは些細なことだ。特に、『彼』を解放してくれたことに関しては、感謝してもしきれないところがある。 「あなたに礼を言うことはあれ、謝罪をされるようなことはなにも」 「いや、でも、傷つけないって言ったのにやらかしたし」 「『彼』はもう折れていたのだと聞きました。あなたは『彼』の歪みを正し、あるべき場所へ還してくれた。その行いを非難するものはいませんよ」 「……そんなもんですか?」 「ええ、そのようなものです」  もじもじと手持ち無沙汰にしていた少女の手を、さよがサッと握った。少女ははにかんでその手を握り返す。  そうして、少女は太郎を見上げた。 「それじゃあ私たち帰ります。  できたら、帰る前にみなさんにあいさつできたらって思うんですけど」  そんな少女の言葉に、しかし太郎は身を強張らせた。  太郎は元々表情が豊かなたちではない。しかし、彼が息を詰まらせたことは、初対面の少女にも伝わった。 「もちろん、迷惑じゃなければですけど!」  あわてて付け加えた少女に、さよは首を横に降った。 「違うよ」 「な、なにが?」  少女はさよをすがるように見つめる。 「昨日、君が眠ったあと、説明だけして帰ろうとしたんだけど」 「あいさつせずに帰るところだったのか……」  さよはかまわず続ける。 「こんのすけに門を開くように言ったら、開かなかったんだ」 「えっ」 「あわてたこんのすけが政府に連絡を取ろうとしたら、通信網も断絶してるって」 「ええっ」 「原因を調べるって姿を消したから、多分戻ってくるまでは帰れないよ」 「えー……」  少女は天を仰いだ。  帰ると宣言した少女におかしな反応を見せた太郎は、多分そのことを知っていたのだろう。  しかし、姿を消してから一晩経っているわけだから、一度くらい状況報告に来てもいいものではないだろうか。  そんな少女の思考を察知したのかはわからないが、視界の端からパッと躍り出る影があった。 「はひーお待たせしましたあ!」  噂をすれば影が差す。こんのすけだ。 「こんちゃん、帰れないってほんと?」 「こんのすけですよ審神者様!」 「こんちゃんがこんちゃんじゃなくてこんのすけだって言うなら、私だって審神者じゃないよ」 「そうでした」  こんのすけは咳払いをひとつして仕切りなおす。 「いろいろ修正システムを試してみましたが駄目でした。そもそも、修正システムを含むプログラムの根幹にダメージが入ってしまったようで、救難信号も送れません」 「救難信号の意味ないじゃん、ひどいシステムだな」 「ひええ、お許しを……」  こんのすけは自分が作ったわけじゃないのだと涙ながらに訴えるが、少女にとって重要なのはいつになったら帰れるかだ。 「それで、どうするの?」 「それがですね小夜左文字様」 「小夜左文字じゃない」 「ひええ! そうでした、そうでした!」  同じ失敗を繰り返しているらしいこんのすけに、少女はなんだか不安になってきた。 「結論から申しますと。現状こちらでできることはありません」 「あきらめた!」 「リカバリ領域押さえられたらなにもしようがないんですよう!  しかし、手をこまねいて待つつもりもありませんよ!  審神者様たちには、就任の契約時に結ばれる審神者ネットワークなる霊脳通信網があるのです。そのネットワークは本丸の機能とは独立してるので、外部と連絡が取れるはず。それで政府に助けを求めましょう!」 「審神者じゃないんだって」 「アアアアアアアア」  哀れ、こんのすけは畳に伏した。  なにかブツブツとささやきだすこんのすけ。  ピクリとも動かなくなったこんのすけが、少女はなんだか気味が悪くなって、距離を取ることにした。 「たろうたちさん。なんだか帰るのに時間がかかりそうなので、お世話になりますってみなさんにあいさつしたいです」  少女に名を呼ばれ、今まで一歩引いた位置で事の成り行きを見守っていた太郎は、その長い髪をゆらりと揺らした。 「皆あなたに礼を言いたがってましたから、お会いできれば喜ぶはずです」 「だって、さよ」 「いいと思うよ」 「よければ案内しましょう」 「お願いします!」  少女はうなずいた。  少女を先導するために背を向けた太郎は、しかし背後から「たろうたちさん」と声があがったので、再び振り向いた。 「なにか?」 「えっと」  少女は太郎の前で髪に手ぐしを通し、ちょいちょいと服のすそを引いて佇まいを整える。 「今回はお騒がせしてすみませんでした。  かもう少しやっかいになりそうですが、よろしくお願いします」  深々と頭を下げた少女に、太郎も正面を向き直る。そして、彼も頭を下げた。 「こちらこそ、仲間を救っていただいて、本当にありがとうございました」 「あの。私は、自分の家族のことしか考えてませんでしたから」 「あなた方に救われたことは事実です」  『あなた方』と、太郎は少女とさよをまとめて指して、礼を述べた。さよは平然とした様子で、なにを考えているか太郎には読み取れなかったが、少女は戸惑った様子でうめき声を上げた。  あの苦境の中でも、生来の明るさでみんなを元気付け続けた兄弟刀と違い、太郎は笑い方というものを知らない。しかし、この少女が耳を赤くしてうつむく姿を見ていると、その知らないはずの行為を思い出せそうな気がした。 「では行きましょうか」 「あ、はい!」 「誰から会いに行くの?」  さよの問いに、太郎はちらりと彼に視線を向けて、わずかに逡巡する。 「そうですね。先ほど、打刀の何名かと脇差が集まっているのを見ました。まだ居ると良いのですが」  太郎の言葉に、少女は首を傾げる。おそらく刀種など知らないのだろう。無理もないことだ。  困ったように一度だけさよに視線をやり、そのさよが特に反応を示さないのを見て、太郎を見上げた。 「おまかせします」  そうして、少女とさよは、太郎の先導に従って本丸を歩き回った。  大広間での対峙でわかっていたことだが、刀剣男士には様々な姿形の者がいた。  少女と大して変わらぬ背丈の者。逆に成人男性の平均をはるかに超えた大柄の者。肉付きもそれぞれで、中には本当に剣を取って戦えるのだろうかと思うほど、線の細い者も居た。  少女の来訪に対しての反応も同様で、この本丸に通してもらう前に耳に入った悲惨な過去など微塵も匂わせない快活な者がいれば、引っ込み思案なのか顔を隠してボソボソとしゃべる者、朗らかにこちらを気づかってくれる者など、実に多様である。  そんな彼らに共通するのが、少女に対する感謝の言葉だった。 「ありがとな」 「ありがとうございます!」 「感謝する」 「本当にありがとう」 「おおきに」 「恩に着る」 「わたくしからも、是非お礼の言葉をお!」 「ありがとね」 「ありがとう」 「感謝しております」 「へへ、ありがとな!」 「感謝である!」 「ありがとー」 「ありがとさん」 「感謝しておるぞ」 「ありがとう」  あいさつをするたび自己紹介をされた。しかし、今までこれほど大人数の名前を一度に覚える機会がなかったため、少女の脳はとても追いつかなかった。学校の同級生なら、上履きを見れば名前が書いてあるのだが。  そうして、突然の情報量に少女がめまいを感じはじめた時、部屋を一通り回ったからということで、少女とさよは元寝ていた部屋に戻ることになった。今は日陰で涼んでいる。しかし、あれから陽はますます高くなり、室内も暑さを増している。  太郎は、少女が会えなかった刀剣男士を探しに一人行ってしまった。おそらく、立て続けに大人数と会話して疲れた様子の少女を気遣ってくれたのだろう。  今はさよが一人、正座で少女のそばに寄り添っている。いや、正確には部屋に隅にクダが一匹転がっているのだが、相変わらずウンウン唸るばかりで尾を一振りすらしない。  その時だ。 「ひ、閃きましたあ!」  飛び上がったこんのすけに、うとうとしかけていた少女も飛び跳ねた。 「な、なに!?」 「外部と連絡を取る手段を思いつきました!」  四肢をピンと張り、コーンと勝ちどきをあげるこんのすけに、少女は顔をパッと明るくした。 「じゃあ帰れる?」 「すぐにとは参りませんが、本丸の状態を報告することができれば、救出はずっと早まるはずです」 「どうするの?」 「刀剣男士様のお力をお借りします。  先ほど申し上げた審神者ネットワークと仕組みは同じです。刀剣男士様方にも、顕現した際に構成される独自の霊脳通信網があるのです」  こんのすけは得意げに説明するが、少女はよくわからなかったので、つまり?と首をかしげた。 「準備はこんのすけが致します。さあ、誰か刀剣男士様を」  皆が一挙一動を注視する中で、少女はページの交信ボタンを押した。  ページの下部に、新しく投稿されたコメントが追加される。少女ははやる心を抑え、その内容に目を通した。 「よっし!」 「やりましたね!」  少女はガッツポーズをし、その横でこんのすけがピョンピョン飛び跳ねる。 「うまくいったのかい?」 「はい。他の本丸の審神者さんが政府の方と連絡を取ってくれたみたいです」  少女は笑顔で声に答える。  声の主は、こんのすけがどこからともなく用意してくれたパソコンの裏側に座していた。正座でおっとりとした笑みを浮かべ、こんのすけが取り出した機械を真剣な目でいじる少女を見守っていたのは、石切丸だった。  こんのすけが言うことには、石切丸は今、霊網のポートとしての役割を負ってくれているらしい。  少女には、石切丸がただそこにいてくれるだけにしか見えなかったが、石切丸はこんのすけの説明に納得していたようだし、実際こうしてパソコンが外部のネットワークに通じているのだから問題はない。現代っ子にとというものは、原理など知らなくても使えるのであれば、細かいことは気にしないのだ。 「刀剣男士専用板なのに、事情を話したらみんな快く協力してくれて。刀剣男士の方はみなさんやさしいですね」 「そうかい?  自分のことでないからよくわからないけど、でも本来人間への情は、私たちの本分のようなものだからね」 「さあ、刀剣男士様や中継をしてくれた審神者様たちにお礼を書き込みましょう!」 「はーい」  こんのすけに促され、少女はカタカタと機械のボタンを叩き始める。 「しかし珍妙な道具だ。  あの道具を通して会話している者たちはすべて、同じような道具を使っていると先ほど言っていたけど、他の本丸では刀剣男士もあのようなものを使いこなすのかい?」 「形はいろいろあるけど、パッドタイプなら義務教育で習うから、現世では万人がある程度は使える物だよ」 「ぱっどたいぷ」 「他の本丸のことは知らないけど、こんのすけの言い分を信じるなら、ああやって他の本丸の刀剣男士同士が言葉を交わすのは普通のことみたいだね」  少女はお礼の文章を考えるのに必須の様子なので、さよが答えてやる。石切丸はふんふんとうなずいた。 「私にはとてもできそうもないよ。みな器用なのだね」 「あれは、扱いが難しい方の道具だから。もっと一般向けの簡単なやつもあるよ」 「おや、そうなのかい?  しかし、私たちが使う日はこないから関係のない話か」  穏やかな表情で少女の行動を見守る石切丸を、さよはチラリと一瞥した。 「……刀解を希望するの?」 「はじめからそれがみんなの希望さ。  救い能わずば共に禍と沈もうと覚悟していた」 「そう」 「……小夜は、苦しんだのだろうか?」 「僕は小夜左文字じゃないから、わからないよ」 「そうか……ああ、そうだったね……」  さよはもう一度石切丸を横目で見て、しかしなにも語らず、少女に視線を戻した。  少女は、まだ他の刀剣男士とやり取りをしているようで、こんのすけと話し合いながらパソコンのボタンをたたき続けている。  その少女が顔を上げた。 「石切丸さん」 「なんだい?」 「手当てしましょう!」 「手入れですよ、手入れ!」 「そうだった。手入れしましょう、石切丸さん」 「は?」  石切丸は戸惑って、さよに助けを求める視線を送る。 「どうしたの急に」 「あのね、さよ。助けてくれたみんなが、こっちの本丸の刀剣男士さんたちがケガしてるのが気になるみたいで。  霊力があるなら手入れくらいできるんじゃないかって言うから、試してみようかと思って」 「ここは資源と手伝い札ばかりは有り余っていますので、手入れ部屋に行けばすぐにでもはじめられますよ!」  ご案内いたします、とこんのすけが机から飛び降りた。 「石切丸さん、行きましょう!」 「え、いや、ちょっと待ってくれないかな!?」 「はい?」 「どうせ開門すれば政府から担当が派遣されるのだから、君が気にすることはないんだよ?」  結局刀解してもうらうのだから、とは口にしなかった。 「でも痛いんですよね。なら、少しでも早く直した方がいいと思います」 「いくら手伝い札を使うといっても、手入れは霊力を消費する重労働なんだ。私は特に大太刀といって術者への負担が重い。  君は、見たところ霊力を操る訓練をしたこともない一般人だろう? とてもじゃないけど無理だよ」  石切丸が見たところ、少女の霊力は一般人に毛が生えた程度のものだ。現世でなら勘がいいと言われるのかもしれない。  その程度の力では、軽症の短刀の手入れすら、複数はこなせそうになかった。  そのことを、わかりやすく噛み砕いて、やわらかに伝える。 「じゃあ、私には手入れを任せられないっていう精神的な問題じゃなくて、多分力が足りなくて危ないからやらない方がいいってことなんですね」 「有り体に言うと、そういうことだね」 「むむむ……」  難しい顔で唸る少女の肩に、こんのすけが飛び乗った。 「それならば!」  目をキラキラと輝かせるこんのすけに、石切丸はなにか嫌な予感がした。 「いや、こんのすけ。みんな手入れなしで今日まで来たんだ。本当に気遣いは……」 「心配には及びませぬよ、石切丸様!」 「別に心配をしてるわけでは」 「手伝い札なしで手入れをしてみれば良いのです」  なにを言い出すのだ、このクダは。  石切丸はこんのすけを凝視した。  少女は首を傾げる。 「手伝い札って、お手入れを一瞬で終わらせる道具だよね。  それがなしってことは……時間をかけると何が違うの?」 「さあ」  さよは首を横に振る。 「ご存知の通り、手伝い札を使えば、手入れを一瞬で終わらせることができます。しかしそれは、手入れに必要な霊力を一瞬でかき集めるということ。術者にもそれなりの負担がかかるのです。  しかし、手伝い札なしの場合には、手入れの進行に合わせてゆっくりと霊力を消費します」 「それって、途中で霊力が足りなかった場合には?」 「当然手入れは中断されますが、無理をせずに済むので術者への負担はかなり軽減されます。  ためしに石切丸様を手伝い札なしで手入れされてみれば、手入れが本当に無理なのかわかりやすいでしょう?」 「こんのすけ、君ねえ!」 「石切丸様」  こんのすけの硝子のようなツルリとした瞳が、石切丸をひたと見据えた。 「通常、人間は共感性というものを持ちます。  貴方様たちが傷を持つことは、そのまま審神者様を傷つけることに繋がるのです」 「だから審神者じゃないって」 「そうでした!」  石切丸は無意識に腹を押さえた。  かつて審神者だった男の指示で、仲間の刃によって穿たれた傷が、そこにはある。  自分たち刀剣男士は、人の心のようなものを与えられた付喪神だ。もし、自分たちにも共感性というものがあるのなら、泣きながら刃を突いた彼らは、自分を見るたび何を思っているのだろう。  キュウと、心の臓がうずいた。 「手入れって本当に危険はないの?」  さよが少女の肩に立つこんのすけを見上げて問うた。 「霊力の配分から転換まで、すべてこのこんのすけが完璧に補佐致します。  もしもの時は、手入れのために結んだ霊経路の遮断まで準備万全です。万に一つも問題はありません!」  ふんす、と鼻息が見えそうなほど、こんのすけは自信満々にふんぞり返った。そのままバランスを崩して、少女の肩から転がり落ちる。 「あわわわわっ」  畳の上でつぶれて手足をばたつかせるこんのすけに、さよはどことなく冷めた視線を向けて、そして少女を見上げた。 「さよは反対する?」 「……いや、任せるよ」  そう言って、さよは少女の手を取った。 「石切丸さん。できなかったらあきらめますから、ためしにお手入れさせてください!」 「いや、しかしね」 ・とあるJKが女審神者になるまでの話 ・元ブラック本丸が舞台(まだホワイト化はしてない) ・刀剣男士は皆ホワイト 一縷の祈り(http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5813100)の後の話。 一縷の祈りでは切り捨てたけど書きたかった設定などを、書きたいシーンだけ繋いだやつなので脈絡もオチもない。 「危険はないってこんちゃんも言ってますし」 「こんのすけですよう」  確かに、どうせすぐに刀解するのだから今更手入れする必要はないという刀剣男士側の事情がなければ、少女の言い分に間違いはないのだ。  石切丸は改めて少女を眺めた。  本当に微弱な霊気だ。石切丸の手入れに臨んでも、多分すぐに音を上げることになるだろう。  しかし、少女が石切丸に向ける瞳は、自分にもできることがあるのだという高揚感で輝いていた。 「本当に、君に危ないことがないならね」  ため息混じりに、譲歩の意思を表明する。  ぱあっと少女の表情が明るくなった。 「手入れ部屋! 手入れ部屋どこ?」 「こちらです!」  感性を上げる少女とこんのすけに、石切丸は無邪気なものだと苦笑した。 その後の話  全身をじっとりと包む熱の不快感に、少女の意識はまどろみから浮上した。  おきなければと頭のどこかが囁いたが、元々の低血圧がたたり寝汚い方なので、重いまぶたが開かない。覚醒したとは言いがたい状態だったが、じりじりと上がり続ける気温と、汗で首筋に張り付いた髪の不快感はひとしおで、少女は二度寝かなわず手探りで目やにをぬぐった。  転がったまま腕を上げて背筋を伸ばせば、さすがに目がさめてくる。少女はあくびをひとつ、腕を頭上に伸ばし、寝ている間に固まってしまった体をほぐした。  あくびを終えた少女が薄目を開ければ、見慣れた青の髪が視界に入った。  少女は大切な家族がいつもどおり隣で寝ていることに顔をほころばせる。そして、瞬いた。見慣れない緑を目に留めたのだ。 「たたみ?」  記憶にある物よりなんだか薄汚れているが、間違いなく畳だ。  自室のベッド以外の場所で目覚めた記憶のほとんどない少女は、見慣れぬ光景に身を起こした。  少女は自身の右手を見下ろす。  そこには少女のものより一回り小さい手が握られていた。それはいつものことだ。  小さな手の主は、少女のかたわらで猫のように身を丸めて寝入っている。少女の大切な家族、さよだ。  少女は、自分たちが畳の上で並んで寝ていたことを知った。どおりで、なんだか少し体が痛いような気がする。やわらかな寝具しか知らない現代っ子は貧弱なのだ。  ただし、少女が頭を預けていた場所には、見覚えのある柄の布が丸めてあった。少年の縹(はなだ)色の髪に影を落としたような、落ち着いた花浅葱の布地に、濃藍の紋様と縁取り。少女にはそれが、いつも少年がまとっている袈裟だとすぐに知れた。つまりこれは、さよの少女に対する気遣いというわけだ。  しかし、なぜ気遣いが必要な場所に寝ているのか、それがわからない。 「さよ。ねえ、さよ」  寝起きでかすれた声は消え入りそうなほどにか細かったが、さよはパチリと両目を開いた。少女の起床の様子とは、まるで正反対だ。  さよはしなやかな動きで身を起こす。その双眸が、少女を見つめた。 「おはよう」 「……おはよう」  さよの挨拶に、少女はたっぷり二拍は置いて答えた。明らかに、頭に血がめぐっていない。 「体調はどう?」 「悪くはない、と思う、けど」 「けど?」 「……エアコンが恋しい」  公立の小中学校にも冷暖房が完備されるご時勢である。もう一度言うが、現代っ子は貧弱なのだ。  さよは数度瞬くと、慰めるように少女の頭をなでた。そして、丸まっていた袈裟を拾い上げると、慣れた手つきで身にまとう。  少女は周囲を見回した。完全な畳張りの部屋に、やはり見覚えはない。  廊下に面した障子も、その向こうの雨戸も開け放たれており、夏の朝の日差しを浴びる草木を臨むことができた。 「ここ、どこ」 「覚えてないの?」  少女は少しの間首を傾げ、そしてうんとうなずく。 「どこ?」  もう一度たずねた少女に、しかしさよは答えず、すっと立ち上がった。 「お目覚めになりましたか」  聞き覚えのない声に、少女は身をすくませた。  開け放たれた障子の先の廊下、少女にとってはさよの向こう側に、人影があった。  大きい。鴨居に頭をぶつけそうなほどの長身だ。  少女はポカンと口をあけて、その人物を見つめた。  黒を基調とした和装も、鮮やかな朱の隈取が目を引く端正な顔立ちも、一部のゆがみもなく真っ直ぐ伸ばされた漆黒の髪も。それらすべてがあまりに縁遠く、少女にとってはなんだか作り物めいて見える。  だけど、どこか見覚えがあるような。 「起きたけど、寝起きで少し混乱してる」 「なんと。それはそれは……」 「だから、もう少し待ってほしい」 「もちろんかまいませんよ」  なんだか少女の知らない場所で会話が進んでいく。  その時、少女の脳裏にひらめくものがあった。  やはり畳張りの、広い広い大広間。そこにたくさんの男の人たちがいて、それぞれがかなり個性的な服装をしている。彼らは刀剣男士と呼ばれる人ならざる存在で、確か彼らを虐げたどうしようもない人間がいて。それから、それから。  あの部屋にいた男たちの中に目の前の男がいたことを、少女はやっと思い出した。 「刀剣男士さん」  声をあげた少女を、長身の男がパチクリと瞬いて見下ろす。 「太郎太刀だよ」  さよが情報を補う。そちらに、男は軽く目を見張った。 「覚えているのですか」 「記憶はあるんだ」  さよと太郎太刀と呼ばれた男が言葉を交わす間に、少女は「たろうたちさん」と復唱する。  不意に少女は立ち上がった。自身と太郎の間に立っていたさよの肩をつかみ、自分の方を向かせる。 「なに?」  首をかしげたさよの頬を、少女は両手で包み込んだ。そのままペタペタとなでまわす。  さよは嫌がる風もなく、少女をじいと見つめた。 「生きてる」 「殺さないでよ」  真面目な表情で呟く少女に、淡々と言葉を返すさよ。そんな二人を、太郎は廊下から眺める。  大広間で相対したときはずいぶんしゃんとした少女に見えたが、今は寝起きのせいなのか、かなりマイペースの様子だ。しかし、さよの平然とした反応を見るに、これが彼女の素の姿なのかもしれない。  そうしてさよの頬をいじり倒していた少女だったが、不意にさよの頭に両腕をまわした。そのまま彼の頭を抱き寄せる。  さよの髪に顔をうずめるようにしてうつむいてしまった少女の表情をうかがい知ることは、刀剣男士の中でも一、二位を争う長身の太郎太刀にはできない。しかし、少女に応えるように彼女の背に回されたさよの手が、ことのほか優しく少女をあやすのを見て、よく見知っていたはずの少年が、本当にひどく遠い存在になってしまったのだなと、太郎は改めて思い知った。 「なんか、目が覚めたらいろいろ思い出した」 「そう」  少女はさよから身を離し、太郎の方に向き直った。 「なんか予想外に大事になって、本当にスミマセンでした……」  うなじが見えるほど深々と頭を下げる少女に、太郎はとまどう。  確かに、少女の襲来は様々な物をもたらした。呪いの気配がすっかり失われた離れ屋敷。分厚い雲の吹き払われた清々しい夏空。そしてなにより、みんなの心に重くのしかかっていた『彼』の開放。余波で少しばかり庭がボロボロになってしまったが、そんなものは些細なことだ。特に、『彼』を解放してくれたことに関しては、感謝してもしきれないところがある。 「あなたに礼を言うことはあれ、謝罪をされるようなことはなにも」 「いや、でも。傷つけないって言ったのにやらかしたし?」 「『彼』はもう折れていたのだと聞きました。あなたは『彼』の歪みを正し、あるべき場所へ還してくれた。その行いを非難するものはいませんよ」 「……そんなものですか?」 「ええ、そのようなものです」  もじもじと手持ち無沙汰にしていた少女の手を、さよがサッと握った。少女ははにかんでその手を握り返す。  そうして、少女は太郎を見上げた。 「それじゃあ私たち帰ります。  できたら、帰る前にみなさんにあいさつできたらって思うんですけど」  そんな少女の言葉に、しかし太郎は身を強張らせた。  太郎は元々表情が豊かなたちではない。しかし、彼が息を詰まらせたことは、初対面の少女にも伝わった。 「えっと、もちろん迷惑じゃなければですけど!」  あわてて付け加えた少女に、さよは首を横に降った。 「違うよ」 「な、なにが?」  少女はさよをすがるように見つめる。 「君が眠ったあと、説明だけして帰ろうとしたんだけど」 「あいさつせずに帰るところだったのか……」  さよはかまわず続ける。 「こんのすけに門を開くように言ったら、開かなかったんだ」 「えっ」 「あわてたこんのすけが政府に連絡を取ろうとしたら、通信網も断絶してるって」 「ええっ」 「原因を調べるって姿を消したから、多分戻ってくるまでは帰れないよ」 「そっちかー」  少女は天を仰いだ。  帰ると宣言した少女におかしな反応を見せた太郎は、多分そのことを知っていたのだろう。  太郎が一歩少女とさよに近寄り、その長い髪をゆらりと揺らした。 「みなあなたに礼を言いたがってましたから、お会いできれば喜ぶはずです」 「……すぐには帰れないみたいだし、その件もあわせてあいさつしとこうかな。  どうだろ、さよ」 「いいと思うよ」 「よければ案内しましょう」 「お願いします!」  少女はうなずいた。  少女を先導するために背を向けた太郎は、しかし背後から「たろうたちさん」と声があがったので、再び振り向いた。 「なにか?」 「えっと」  少女は太郎の前で髪に手ぐしを通し、ちょいちょいと服のすそを引いて佇まいを整える。 「今回はお騒がせしてすみませんでした。  なんだかもう少しやっかいになりそうですが、ちょっとだけよろしくお願いします」  深々と頭を下げた少女に、太郎も正面を向き直す。 そして、彼も頭を下げた。 「こちらこそ仲間を救っていただいて、本当にありがとうございました」 「あの。私は、自分の家族のことしか考えてませんでしたから」 「救われたことは事実です」  あの苦境の中でも、生来の明るさでみんなを元気付けた兄弟刀と違い、太郎は笑い方というものを知らない。しかし、この少女が耳を赤くしてうつむく姿を見ていると、その知らないはずの行為を思い出せそうな気がした。 「では行きましょうか」 「はい!」 「誰から会いに行くの?」  さよの問いに、太郎はちらりと彼に視線を向けて、わずかに逡巡する。 「そうですね。先ほど、打刀の何名かと脇差が集まっているのを見ました。まだ居ると良いのですが」  太郎の言葉に首を傾げる少女は、おそらく刀種など知らないのだろう。無理もないことだ。  困ったように一度だけさよに視線をやり、そのさよが特に反応を示さないのを見て、太郎を見上げた。 「おまかせします」 さよと主の距離が5mも離れている話。  他の本丸には、食事係や当番というものがあるらしい。らしいというのは、自分たちの本丸にはそれがないので、実感としていまいちピンとこないのだ。  では、数十人分もの食事をどうしているかと言うと、炊事妖精を採用している。一抱えもある大きな炊飯ガス釜が二つ、鍋はコンロに据え付けられた業務用で、揚げ場はシンク据え付け、業務用冷蔵庫と冷凍庫は当然ながら、焼き物用に業務用オーブンまで備えている。それらが、小さな炊事妖精たちにも扱えるように配置されていて、毎日三食の白飯汁物揚げ物焼き物は、彼らが準備してくれる。  かわりに炊事補助という内番があり、出来上がった食事を盛りつけたり、食器の後片付けをするのが役目だ。  ちなみに、献立は主が決めるという地味に負担の重い決まりになっているが、当の主は早々に政府発行の刀剣男士対応365日献立表を採用した。おかげで、本丸の食事はいつも偏りなく彩り豊かである。  しかし、だからといって、通常の台所に給湯室以上の出番がないわけではない。妖精用炊事場の隣にある真新しいシステムキッチンは、ちょっと小腹が減った刀剣男士たちの憩いの場だ。それに、献立表にのぼらない現世のお菓子やジャンクフードが恋しくなった主が、近侍を伴って通販で取り寄せた材料片手にしばしば姿を現す。  そんなわけで、畑仕事の内番に一区切りつけて休憩を取っていた燭台切光忠は、突如として台所(ほとんどの刀剣男士は厨と呼ぶ)に姿を現した主に、たいして驚かなかった。 「光忠さん、卵ないかな」  お菓子作りには何かと入用らしい卵を失敬しようとするのも、まあいつものことだ。 「できれば常温がいいんだけど」 「常温はさすがにないよ」 「まあいいか。じゃあ冷蔵庫の使おう」  冷蔵庫という存在にあまり馴染みがなかった刀剣男士たちにとって、常温でも長持ちする卵を冷蔵庫でさらに長持ちさせようという発想など、本来はない。しかし、二日に一度は卵かけご飯を好んで食べる彼女が、一週間ほど政府の病院に収容されて以来、この本丸で卵の常温保存は固く禁じられていた。  彼女の近侍いわく、すでに現世でも一度やらかしているというのだから、人間の職への執念というものは、いかんとも侮りがたい。  ともかく、常温の卵の入手をあきらめた光忠の主は、牛乳と呼ばれる飲料の紙パックと、そしてなにやら小さな小瓶を机の上に並べた。牛乳は光忠が名前を覚えるくらい頻繁に持ち込まれるが(そして使い終わる毎に残りは流しに捨てられる。なんでも、うっかり放っておくと白からピンクに進化するらしい)、主の手でも簡単に包み込める小さな褐色のビンには、さっぱり見覚えがなかった。  今日のお菓子作りはずいぶんと材料が少ないのだなと、光忠は主の様子をぼんやりと眺めた。いつもなら近侍といっしょに、材料を両手いっぱいに抱えて厨に現れるものだから、珍しく二人が手も繋げないくらいなのだ。  はたと、光忠は気づいた。近侍の姿がない。  光忠は驚愕する。だって、本丸内のどこに行くにも、片時も彼女の手を離さなかった近侍が見当たらないのだ。 「ねえ主、さよ君はどうしたの?」  主は冷蔵庫から卵を失敬しようとする姿のままで動きを止めた。数度まばたき、じっと光忠を見つめる。 「砂糖ってまだ量あるよね?」  光忠の問いなど聞こえなかったかのように、彼女は首を傾げる。取り出した卵を机の上に転がすと、砂糖が置いてある戸棚に向かってしまった。  えええ、と思わず声をあげて、光忠は立ち上がる。しかし、次の言葉を口にするより早く、誰かが台所に駆け込んできた。 「すみませーん! 麦茶ってまだたくさんありますか?」 「あるよー」  主は答えながら振り返る。  光忠は位置の関係から、主より少しだけ早く、台所に入ってきた人物が堀川国広だと確認することができた。そのほんの少しの間に、堀川が苦笑いしながら人差し指を唇の前に立て、口をつぐむようにと合図するのを見た。  堀川は「主さん」と声をあげて、いつもと同じ人好きのする笑顔で主に近寄る。 「お菓子作るんですか?」 「まあね。堀川くんは?」 「兼さんたちの手合わせがそろそろ終わりそうなので、お茶を出そうと思って」 「そっか。じゃあ、作り足しておいた方が良さそう」  麦茶はいつも十二分に冷蔵庫に用意しているつもりだが、手合わせの後となれば消費量も尋常ではないだろう。備えを切らさないために、主はヤカンを三つ取り上げる。ないならないで、井戸水だって十分に冷たくておいしいのでかまわないのだが、主にとってお茶とは、常に冷蔵庫に常備されてしかるべきものであるらしい。 「主さん、僕がしますよ!」 「別にいいよ、今から火使う予定だったから。お湯が沸いたらパックいれて、煮詰まる前に火から降ろすだけだからね。  あ。でも、冷めた頃に冷蔵庫に移すのは、やってもらえたら助かるかな?」 「わかりました」  そうして堀川は、お茶の容器と人数分のコップをお盆に載せると、それじゃあと台所を去って行った。  困ったのは残された光忠だ。  堀川の目配せの意味は、おそらく心配ないので放っておくようにということだろう。もちろん、本丸内が安全であることは光忠も承知している。しかし、日々主に張り付いていた近侍の姿を思えば、彼女をひとりで台所に残すのははばかられた。  そんな光忠をよそに、主である少女は、卵をボウルに割り入れ、砂糖を量り、牛乳を軽量カップにそそぎと、手馴れた様子で作業を進めていく。  ふと、光忠の視界の端で暖簾が揺れた。この台所は、廊下とは暖簾一枚で隔てられているのだ。  暖簾の隙間から顔をのぞかせたのは、いつもどおりのやんちゃそうな笑みを浮かべた鯰尾藤四郎だ。その後ろには、こちらもいつもと同じ我関せずといった表情の、骨喰藤四郎も控えている。  いつもなら朗らかに声をかけてくるはずの鯰尾が、なぜか無言で光忠を手招きしている。骨喰がため息をついていないため、イタズラの類ではないとわかるが、なんとなく近寄りがたい。すると、鯰尾が自分の横をちょいちょいと指差した。廊下に何かあるのだろうか。  光忠は意を決して近寄った。鯰尾が後ろに引いて場所を空けてくれたため、暖簾を手で避けて廊下に身を乗り出す。  鯰尾が指差す先に視線を落とすと、青い団子が転がっていた。  は、と口を阿の字に開け、光忠は呆然とかたまる。廊下の隅、台所の入り口脇に転がる団子は、主の近侍だった。  いや、これは本当に近侍だろうか。全身を青の袈裟でおおってしまっているため、ひょっとしたら別の短刀やふとんでも丸めて中に詰め込んであるかもわからない。  光忠がさらに回り込んで団子を観察すると、袈裟でおおいきれなかった隙間から、あの特徴的な青の神が、ぴょこんとはみ出しているのが見えた。やはり近侍のさよのようだ。  さよは、正座の状態から上半身を丸めるようにして、廊下にうずくまっていた。  どうしたのこれ、と光忠は視線で鯰尾と骨喰に問いかける。  鯰尾が苦笑を浮かべて、こそこそと光忠に囁いた。 「なんかケンカしたみたいです」 「ケンカ。なんでまた」 「さあ?」  光忠はおろおろと、廊下のさよと台所の主を交互に見たが、鯰尾は大事にも思っていないようで、能天気に笑っている。  骨喰が、すっと光忠に寄った。 「ケンカしても離れがたく思っているのだから、心配することはない。だから主もああしてるんだろう」  その主は、なにやら泡だて器でボウルの中身を必死にかきまぜている。  よく見かけるお菓子作りの姿だ。ただ、隣で手伝う近侍の姿がないだけ。  光忠は瞬いた。 「プリンという菓子がある」 「ぷりん」  光忠は復唱した。 「牛乳と卵で作る、冷やした茶碗蒸しのような菓子らしい」 「へえ」 「さよの大好物だと、前に主が言っていた」 「なるほど」  主が作っているのは、そのプリンに間違いないだろう。  光忠はさっきまでと打って変わって、頬の筋肉がどうしようもなく緩むのを感じた。 「かわいいねえ」 「ああ」 「ですよね!」  主が鍋に水を張り、火にかけた。茶碗蒸しなら蒸し器は使うはずだが、鍋で代用するつもりらしい。 「蒸し器ってどこにしまってたかな」 「いや、昔から主は鍋で作ってるらしいですよ」 「それ、卵焼きにならない?」 「『弱火でじっくりコトコトがコツ』だと言っていた」 「本当に慣れてるんだねえ」  この本丸に審神者として就任して以来、主の生活はいっぺんに変わってしまった。  正規手順を飛び越えての就任のため、本来見習い時代にするべき勉強と、審神者としての業務を、まとめて負っている。その上、彼女は現世では学徒の身分であったらしく、修了の資格を得るための学習までしているのだという。  昔は、休みのたびにお菓子をこしらえていたのいうのだから、ひょっとして彼女にとってお菓子作りとは、現世を懐かしむ心を慰める重要なひと時なのかもしれない。 (片羽「単純な趣味が盛大な誤解を光忠さんに与えている」) 【救援】328◆YUizNdzbzH を救援するスレ【求む】 1 :代理の刀剣男士 このスレは、刀剣男士質問スレ Part27の328こと 片羽◆YUizNdzbzH を救援するためのスレです ■事の発端 刀剣男士質問スレ Part27 http://…/328-365 ■注意 ・このスレは刀剣男士板としては例外的に主との閲覧を推奨します  刀剣男士は、主のコメントもどんどん書き込んでください ・片羽◆YUizNdzbzH は刀剣男士ではありませんが、審神者ではないため  現在のところ刀剣男士板以外に頼れる場所がありません  板違いになりますが、例外措置としてあたたかく見守ってあげましょう 2 :代理の刀剣男士 ■まとめ 片羽◆YUizNdzbzH ・刀剣男士質問スレ Part27の328の相談者 ・相談者。刀剣男士でも審神者でも政府の人間でもない ・本丸のシステムが破損して帰れなくなったので、政府に連絡したい ・協力してくれる刀剣男士が全員PCオンチのためカキコ担当 ■現在の目標 本丸のシステムが壊れて政府と連絡が取れない片羽◆YUizNdzbzH のために 主に相談して政府に事情を伝える おそらく、政府ではこのスレを見ることができないはずなので 必要に応じて中継ぎを行う 3 :774の刀剣男士 ぐう有能な代理乙 4 :774の刀剣男士 ぐう有能おつ 5 :片羽◆YUizNdzbzH ぐう有さんありがとうございますー! 6 :774の刀剣男士 ぐう乙 7 :774の刀剣男士 >>5 さらっとあだ名つけんなしw 8 :774の刀剣男士 ■まとめ 片羽◆YUizNdzbzH ・刀剣男士質問スレ Part27の328の相談者 ・相談者。刀剣男士でも審神者でも政府の人間でもない ・本丸のシステムが破損して帰れなくなったので、政府に連絡したい ・協力してくれる刀剣男士が全員PCオンチのためカキコ担当 ぐう有 ・刀剣男士質問スレ Part27の351のぐう有能な刀剣男士 ・困惑するスレ民を颯爽と誘導し、片羽◆YUizNdzbzH の専スレを立てた ・さらっとまとめまで掲載するぐう有能っぷりが光る 9 :774の刀剣男士 >>8 やめろwww 10 :774の刀剣男士 >>8 くっそこんなのでwwwwwwww 11 :ぐう有 >>5>>8 オレはもうただの名無し男士に戻るからやめろwww 12 :774の刀剣男士 楽しそうなのはいいけど本題戻ろうぜw さっそくだけど俺は主呼んでくるわ 今日は短刀と一緒に畑仕事するって言ってたから時間は空いてるはず 13 :774の刀剣男士 僕もー 執務室いるみたいだけど、どうせいつもどおりさにちゃんでしょ 14 :774の刀剣男士 >>13の主への信頼のなさww 15 :774の刀剣男士 最初から主と同じ部屋で端末いじってた俺氏コロンビア ただし主がスナイプ狙ってるので話を聞いてくれない模様 16 :774の刀剣男士 >>15 イキロ 地味に>>12が気になる 短刀って主好きすぎるやつ多いから、邪魔すると後が怖くね? 17 :774の刀剣男士 >>16 短刀は天使だろいい加減にしろ! 夜戦のことなら・・・あいつらもいっぱしの男士だし、多少はね? 18 :片羽◆YUizNdzbzH みなさんありがとうございます! 政府への報告に必要そうな情報をまとめておきました 本丸ID:syb171-828788 契約名:片羽 身元保証人:少名根棲祖神 19 :774の刀剣男士 >>18 20 :774の刀剣男士 >>18 21 :774の刀剣男士 >>18 22 :774の刀剣男士 >>18 >身元保証人:少名根棲祖神 >少名根棲祖神 23 :774の刀剣男士 >>18 まって・・・いやほんとまって・・・ 24 :774の刀剣男士 >>18 >身元保証人:少名根棲祖神 祭りごとには疎い俺でも、これは身元保証"人"じゃないと容易にわかる 25 :774の刀剣男士 俺もさっぱりな口だが、主が>>18を見てから固まって動かない どうすりゃいいんだこれ 26 :774の刀剣男士 うちの主もだ 27 :774の刀剣男士 オレもオレも 28 :774の刀剣男士 僕の主はいっしょに首傾げてるんだけど・・・ 29 :774の刀剣男士 御神刀とかで見てるやついねーのか 誰か解説はよ 30 :774の刀剣男士 御神刀じゃなくて悪いが、主が見習い時代の教本出して教えてくれたから簡単に説明 ■少名根棲祖神(スクナネスミノオヤノカミ) とある地方の土着神で、主に縁結びと縁切りを司ってるらしい もともと現世では祭司もいないような社をひとつ持つだけだったらしいが 歴史修正戦争において刀剣男士を顕現するのに協力してくれる神様が他にいなかったらしく 俺たち刀剣の本霊と同じように、協力神として政府で丁重に祀られているとのこと 審神者が刀剣男士顕現のためにまず最初に畏み申すのが、この少名根棲祖神 だから、ちゃんと教本で祝詞を勉強した審神者なら名前だけは見たことがあるはずってさ 31 :774の刀剣男士 >>30 ナイス それって、その神様がいなければ俺たちは主と出会えなかったってことだよね? 32 :774の刀剣男士 >>30 あー! 確かにスクナネスミノオヤノカミって聞いたことある気が! 主が鍛刀するときめっちゃ拝んでる 33 :774の刀剣男士 これ>>28の主に誰か突っ込もうぜ 34 :28 >>33 石切丸に事情を説明したら、すごい足音立てて逃げ出した主を追って行った 35 :774の刀剣男士 >>34 捕まる気がしないんだよなあ・・・ 36 :774の刀剣男士 ていうか、なんで片羽◆YUizNdzbzH は神様に身元保証されてるの? 質問スレで言ってた政府の人に話をつけてくれた知人って、もしかしてその神様? 37 :774の刀剣男士 政府以外じゃ祀ってくれる人間がいないんだろ? 政府関係者じゃない片羽◆YUizNdzbzH に知り合う機会とかあるの? 38 :片羽◆YUizNdzbzH ネスミノさんはうちの氏神様です 確かに神社主導でこそないですが、小さなお祭りはまだ地元でやってますよ だから信者ゼロみたいな言い方やめてください >>36 おっしゃるとおり、ネスミノさんが協力してくれました 政府に顔が利くというのも知ったばかりなのに、まさか祀られているとは・・・ でも、やっぱりいたせりつくせりの都会より、住み慣れた田舎の方が安心するんですかね? いつ行っても祠のそばをうろついてますよ 39 :37 >>38 ごめんなさい 40 :30 >>38 主は「教本にそう書いてあるんだよ!」などと供述しており 41 :774の刀剣男士 >>38 >ネスミノさん 土着神あるあるのアットホームな呼び名に主が頭抱えてる 42 :774の刀剣男士 >>38 いつ行っても見かけるのか・・・ 祭司をなくすレベルの神がそう降臨できるとは思わないから きっと片羽◆YUizNdzbzH は見る力が強いだろうことは把握した 43 :774の刀剣男士 >>42 そもそも人間じゃない可能性 44 :774の刀剣男士 >>43 おいやめろばか 45 :片羽◆YUizNdzbzH >>42 おっしゃるとおりで、おかげで友達らしい友達がいないまま育ちました >>43 ちゃんと戸籍もあるし人間ですよ 今年の春に高校入学したばかりです。ただしセーラー服は卒業できませんでした 46 :774の刀剣男士 >>45までスクロールした途端 主が男泣きしはじめたんですけどォ!? 47 :774の刀剣男士 うちの主はガタッと立ち上がった そして着席した 48 :774の刀剣男士 うちの主はガタッと立ち上がったと思ったら土下座はじめた 49 :774の刀剣男士 自分の主も急に挙動不審になって上着脱ぎ始めた 50 :774の刀剣男士 >>45には俺たちの主の心を動かす人間にしかわからない何かがあるらしい 51 :774の刀剣男士 >>46-50 おまえら、多分>>46の主以外はろくな理由じゃないから気にするな >>46は主をどれだけ慕ってるか語ってやれ、ただし語るに落ちるな口チャックしてろ と、主が言っている 52 :774の刀剣男士 >>51 この人間を理解してる感頼もしい、近侍として見習わなくては と思ったらオチ 53 :774の刀剣男士 というか思ったよりみんな主を呼べてるみたいだな オレはビジネスライクというらしいんだが、そこまで親密じゃないからなあ 54 :774の刀剣男士 全俺が泣いた >>53や本丸の仲間に不満がなければ、それもひとつの主従関係なんだろうけど うちがアットホームだから余計にそう感じるのかもしれん 55 :774の刀剣男士 ところで>>38だけど、人がいないってことは宮参りとかできないだろうに氏神って 片羽◆YUizNdzbzH はなんか氏子になるきっかけでもあったの? 56 :774の刀剣男士 >>38の言い方だと、名前だけでも地元では親しまれてるみたいだし 鎮守とか産土神と混同してるんじゃないかな 実際、現代ではほとんど区別しないらしいぞ 人間側も、地元に住んで祭りに参加したらまとめて氏子だと しかし、政府で丁重に祀られてるのに地元から離れないとなると 少名根棲祖神は片羽◆YUizNdzbzH の土地の鎮守なのかもしれない 57 :片羽◆YUizNdzbzH >>56 なんか地元は名前に根棲とあるとおり、根の国って言ってましたよ 今ある社は、とある神様を助けたときのご縁でつくっていただいたのだとか ところで、誰か政府に連絡取れた方いますか? 58 :774の刀剣男士 うちの主があわてて担当呼び出してる 59 :774の刀剣男士 俺のとこもだわ(自分自身のことは棚に上げていくスタイル) 60 :774の刀剣男士 >>57 すまぬ・・・すまぬ・・・! 61 :774の刀剣男士 >>57 協力したいのは山々だが、あまり担当と親しくないので言い辛いって 主が謝ってる 62 :774の刀剣男士 >>61 大丈夫かそれ? 上司との不和って人間にはかなりのストレスらしいぞ やっぱり刀剣男士は現世の人間とはズレてるところが多いし 唯一頻繁に会話できる人間に心を許せないんじゃあ心配だ 本丸板の政府対応に関する相談スレ過去ログまとめを読むことをオススメする 63 :片羽◆YUizNdzbzH みなさんの好意で協力していただいてるのに 急かすようなこと言って申し訳ないです・・・ ただ、本丸の刀剣男士の方には酷い傷を負ってる方がいるんですよね 審神者でないと治療できないらしいので、はやく政府に審神者の人を派遣してほしいです 64 :774の刀剣男士 えっ 65 :774の刀剣男士 >>63 66 :774の刀剣男士 >>63 67 :774の刀剣男士 片羽◆YUizNdzbzH はそうやってぶっこむのやめよう!? 68 :774の刀剣男士 >345 :328◆YUizNdzbzH > >とりあえず後出しするのもよくないので、必要そうなことをすべて書きます > >まず、私が今いる本丸は6ヶ月前にブラック本丸認定を受けました >ただし、審神者との契約はすでに解除されているのでご安心を >この本丸の刀剣男士の方々は、人間に対して恨みはないそうですが >前審神者のせいで荒れた仲間を鎮めることを最優先に望み >政府からの支援をすべて断っていたそうです >政府からの支援をすべて断っていたそうです これか 69 :774の刀剣男士 >>68 それだわ 70 :774の刀剣男士 手入れなし進軍系のブラック本丸かよお! 絶対許早苗 71 :774の刀剣男士 >>70 もう解決してるから落ち着け 72 :774の刀剣男士 >私がこの本丸に来たのは、その荒れた仲間の方に会うためでした >いろいろあって問題が解決したので、帰ろうと思ったのですが 質問スレのここだけど、つまり片羽◆YUizNdzbzH が鎮魂したってこと? 73 :774の刀剣男士 いや、ブラック本丸の荒魂とかの処理は政府お抱えの術師とかの仕事だろ うちの主にもたまに応援要請が来る 片羽◆YUizNdzbzH は氏神から政府に紹介してもらったってんだから順番が逆だ 74 :片羽◆YUizNdzbzH あー・・・政府に連絡取るのに関係ないと思うんですけど、その説明いります? 75 :774の刀剣男士 関係ないとは思うけど気になる 76 :774の刀剣男士 気になるな 77 :774の刀剣男士 なるなる 78 :774の刀剣男士 >>75-77 圧倒的連携感 79 :774の刀剣男士 片羽◆YUizNdzbzH が話してくれるなら聞きたいなー?(チラチラッ 80 :774の刀剣男士 いや、でもブラック本丸の話だろ? 本人が話したがってないのに、興味本位にかき回すのはどうかと思うぞ 81 :774の刀剣男士 >>80 うっ 82 :片羽◆YUizNdzbzH >>80 それなんですよね 回線をつなげるのに協力してもらってる以上、みなさんも一緒に見てるわけで あんまり部外者の私が話すことでもないと思うし・・・ 83 :774の刀剣男士 >>82 鎮魂したのに部外者なの? 84 :片羽◆YUizNdzbzH >>83 そもそもあれは鎮魂だったのかという うーん 協力してもらってますし、大雑把でよければ私にわかる範囲で説明します そもそも私この本丸の事情まったく知らないので、わからない部分や話しにくい部分は 適当にごまかしますけど、それでよければ 85 :774の刀剣男士 >>84 主と一緒に正座した 86 :774の刀剣男士 >>84 あるじ様はいないけど兄さんといっしょに座布団用意しました 87 :774の刀剣男士 >>84 キャー片羽◆YUizNdzbzH サーン 88 :774の刀剣男士 >>84を見た主が上半身裸になったんだが・・・ 89 :774の刀剣男士 >>88 お覚悟しろ 90 :774の刀剣男士 >>88 万死万死ィ! 91 :774の刀剣男士 >>88 何たる無様な・・・ 92 :774の刀剣男士 ここは裸族に厳しいいんたーねっつですね・・・(震え声) 93 :88 ちょっとお祭り好きでお調子者なだけで悪い人じゃないんだ・・・! 毛布でぐるぐる巻きにしたから許してやってくれ! 94 :774の刀剣男士 >>92 ブラック本丸の話題なのに裸族はちょっと 95 :片羽◆YUizNdzbzH >>93 >>88さんもこう言ってることですし、まあみなさんご容赦を こっちの刀剣男士のみなさんは気にしてないと言ってます 今後は一応、被害者だった方も見てることを踏まえて書き込んでもらえればと 96 :774の刀剣男士 把握 97 :774の刀剣男士 せやな 98 :88 はいっ(´;ω;`) 99 :774の刀剣男士 しかし、片羽◆YUizNdzbzH は文章も落ち着いてるし、本当に高校生か? うちの主と同世代とはとても思えん・・・ 100 :774の刀剣男士 >>99 わかる 多分女の子じゃないかなあ。男の子ならもうちょっと幼さ残ってそう 101 :774の刀剣男士 現世に疎いお前らに説明すると、>>45のセーラー服ってのは女学生がよく身にまとう制服の名称だ つまり>>47-50の主は、片羽◆YUizNdzbzH が若い女の子だと気づいて興奮してる 102 :774の刀剣男士 >>101 103 :49 >>101 104 :774の刀剣男士 >>101 >>101 >>101 105 :774の刀剣男士 >>101 106 :774の刀剣男士 >>49の主ははやくなんとかした方がいい 107 :774の刀剣男士 これはギルティ 108 :774の刀剣男士 この流れ、まるで反省していない・・・ 109 :774の刀剣男士 >>108 一応>>95より前の出来事だから許したげて・・・ 110 :774の刀剣男士 どうあがいても有罪 111 :片羽◆YUizNdzbzH 私が知っていることを伝聞込み時系列で箇条書きしますね ・ブラック審神者のせいで刀剣男士の方がひとり折rrrrちゅいおー^ 112 :774の刀剣男士 何があった 113 :774の刀剣男士 >>111 114 :774の刀剣男士 >>111 箇条書き1発目からこっちが泣きそうだし書き込み途切れてるのもめっちゃ心配なのに ちゅいおー^の破壊力で焦るに焦れない 115 :774の刀剣男士 ブラック本丸案件は解決してるし、刀剣男士板に書き込めてるくらいだから刀剣も協力的なはず 多分キーがはまりこんで取れなくなったとかだろ 116 :774の刀剣男士 >>115 ちゅいおー^はなんだよw 117 :片羽◆YUizNdzbzH s9んでyp 118 :774の刀剣男士 片羽◆YUizNdzbzH ー!? 119 :774の刀剣男士 マジでどうした 本当に大丈夫なのかこれ? 120 :774の刀剣男士 ヤバそう 121 :774の刀剣男士 政府に連絡したとこで返事あったやついないのか? IDわかってるし何とかならないのかよ 122 :774の刀剣男士 片羽◆YUizNdzbzH 何があった・・頼む返事を いや、返事したら危ないならそっち集中してほしいけど 123 :774の刀剣男士 うちの本丸、主と担当が仲良くてよくメールのやり取りしてるんだけど 今回に限って返事遅くて主がそわそわしてたら、急に担当が本丸来た しかも、担当だけじゃなくて他に五人くらい見覚えのないやつ連れてる 主がびっくりして対応しにいった 担当の雰囲気からして五人とも担当より上役だと思う 124 :774の刀剣男士 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! って言いたいところだけど、なんかふいんき(何故か漢字変換できない)が 125 :774の刀剣男士 >>123 担当から確認の返事があるならともかく、いきなり上役五人も連れてって さすがに対応はや過ぎないか?別件じゃないの? 126 :123 見慣れないヤツのひとりがスレ見せろとか言ってる 片羽◆YUizNdzbzH の件で間違いないはず 127 :774の刀剣男士 ファッ!? 128 :774の刀剣男士 いつもの重い腰はいったい 129 :774の刀剣男士 フットワークが軽いことはいいことだけど、さすがにおかしいだろこれ 130 :774の刀剣男士 そんなことより片羽◆YUizNdzbzH 本人の安否がヤバイ 131 :片羽◆YUizNdzbzH ごめんなさいだいじょうぶです 132 :774の刀剣男士 片羽◆YUizNdzbzH ー!!!! 133 :774の刀剣男士 無事か!! 134 :774の刀剣男士 片羽◆YUizNdzbzH は>>123見たか? 政府の人間っぽいのが来てるらしい 135 :片羽◆YUizNdzbzH 心配かけて本当にごめんなさい ちょっとキーボードの奪い合いになって >>123見ました メールのやり取りていどの速度になると思ったのに、まさかの大事に・・・ 本当にすみません・・・ すみません、>>123が気になるので箇条書きはあとにさせてください 136 :774の刀剣男士 >>135 キーボードの奪い合いって 137 :774の刀剣男士 そっちの俺らはキーボード入力できないんだろ?なんでまた まさかこんのすけ? 138 :774の刀剣男士 >>135 元々片羽◆YUizNdzbzH が政府と連絡取るためのスレだし>>123優先でいいぜ とりあえず深呼吸して落ち着こうや 139 :片羽◆YUizNdzbzH >>137 こんちゃんじゃないです 私の家族なんですが、>>101見て抜刀したので止めようとしたところ 今度はカキコしようとしたのでキーボードをめぐってもみくしゃになりました 140 :774の刀剣男士 家族が抜刀とは 141 :774の刀剣男士 家族に審神者がいて、刀剣とは家族同然に育ったとかそういうやつだろ(震え声) 142 :片羽◆YUizNdzbzH >>141 もしそうだったら、もう少し周囲の理解ある幼少期をおくれたと思うんですけどね 143 :774の刀剣男士 >>142 もうやめて!オレの主の涙腺LPはゼロよ! 144 :774の刀剣男士 ヒエ。。。 145 :123 担当がつれてきた五人の肩書きがやばい ・A国代表取締役 ・本丸霊質機構管理代表 ・神宮庁顕現管理課代表 ・神宮庁祭祀課代表 ・神宮庁鎮守課代表 146 :774の刀剣男士 >>145 代表おおすぎぃ!! 147 :774の刀剣男士 まつりごとには詳しくないオレにもただごとじゃあないのは理解できる 148 :774の刀剣男士 いや、うちの主の言うことには、この場合の代表という言葉は 「今回の件に対する現場判断権限を持っている者です」という意味であって 実際に部署の長というわけではないらしい ただし一番最初の「A国代表取締役」はガチでやばいと震えてる これはマジもんの長 こいつの判子ひとつで本丸取り潰しから審神者の就任解雇、刀剣男士の行方まで思いのまま ただし、力は行使しないが行使できる状況にあることで抑止力を云々とか言ってるがようわからん 149 :774の刀剣男士 >>148 途中まで感心しながら読んでたのに最後の最後で台無し 150 :123 >>148 その代表取締役からスレを見せるように頼まれてるんだが、どうすりゃいんだ オレは心から信頼する主だから、オレはこのスレを見せたんだ 正直、刀剣男士板を人間に見せたくない 主も例外じゃない これは信頼の問題じゃなくて、オレたちも心を持った以上は 誰にも侵されない領域というものが必要だと思うんだ もちろん片羽◆YUizNdzbzH を助けたいとは思ってるんだが 主以外の人間にこのスレを見せる必要が出るとは思ってなかったんだ・・・ 151 :774の刀剣男士 >>150 じゃあお前は何のために主に報告して、主は担当にメールしたんだよ スレで見せるのはOKって専用ルール作っただろ 今更気にすることじゃない 152 :774の刀剣男士 >>150 なんかわかる気がする 別に直接見せなくてもやり取りはできるし、見せなくていいんじゃないか? 片羽◆YUizNdzbzH だってメールでやり取りする程度とか言ってたし、差し迫った危険があるわけでもない 153 :774の刀剣男士 >>151 おまえは>>150を10回読み直せ その上でそんな思いやりのない言葉が出てくるなら独善的すぎるぞ 154 :774の刀剣男士 >>153 お前もちょっと言葉きつい まあ、123はあくまで厚意から片羽◆YUizNdzbzH に協力してくれたんだから 123の気持ちを最優先にしてもいいんじゃないかと思うが 155 :片羽◆YUizNdzbzH >>150 本当にもうしわけないです・・・ そもそも私が書き込んでることがルール違反であってみなさんのご好意に甘えてるだけなので みなさんの都合を最優先してください その上役の方?には伝聞形式でやり取りできないか私が言っていたと伝えてもらえませんか? 156 :123 >>155 わかった なんかごめんな、こんなんなっちゃって 157 :片羽◆YUizNdzbzH >>156 いえ。ご迷惑おかけします・・・ 刀剣男士質問スレ Part27 1 :774の刀剣男士 このスレは本丸板にある本丸質問スレの刀剣男士限定版です 質問をする前にスレッド内と前スレを検索し 「刀剣男士板 よくある質問まとめ」を確認してから質問してください 刀剣男士以外の閲覧および書き込みはNGです スレチは速やかに該当スレへの誘導お願いします 釣りだと思っても指摘や煽りは禁止です 釣り宣言を見たら、困っていた男士はいなかったのだと安心しましょう ■次スレは>>950が立ててください。 ■できない時は>>975までに報告し、>>980が代行してください。 ■>>950以降、次スレが立つまで質問と回答レスは控えめにお願いします ■政府公式 http://… ■関連 本丸質問スレ Part71 http://… 刀剣男士板 よくある質問まとめ http://… ■前スレ 刀剣男士質問スレ Part26 http://… 2 :774の刀剣男士 >>1おつ 3 :774の刀剣男士 これは乙じゃなくてポニーテールうんぬん ・ ・ ・ 328 :774の刀剣男士 あの、すみません。今だれかいますか? 329 :774の刀剣男士 いるよー 330 :774の刀剣男士 どんな時間でも大抵は非番という名の暇男士が巡回してるから 書き込めば誰かしら集まってくるぞ 331 :774の刀剣男士 ──顕現したての初々しい刀剣男士の気配を察知── >>328 書き込みが複数に分かれそうなら名前記入忘れずにな 相談中に長時間スレから離れる時はトリップ頼むぞ やり方は>>1の「刀剣男士板 よくある質問まとめ」にある。ちゃんと読んだか? 332 :774の刀剣男士 >>331 甲斐甲斐し過ぎワロタ 333 :774の刀剣男士 >>331 この世話焼きっぷりは間違いなく初期刀ですわ 334 :328◆YUizNdzbzH >>331 大丈夫です、ちゃんと読みました 長くなりそうなのと、もしかしたら荒れるかもしれないので 念のためトリつけておきます 先に謝罪したいのですが、私は刀剣男士ではありません スレの決まりに反していることはわかっていますが 本丸のシステムが物理的に破損したようで、政府に連絡がとれないんです 当然、回線を共有する本丸板にも接続できず、他に相談できる場所がありません どうか話を聞いてください こんのすけと本丸の刀剣男士の方々に協力してもらって、ここにアクセスしています 刀剣男士の方が書き込めば問題ないんですが、みんな文字入力ができないらしいので・・・ 335 :774の刀剣男士 なんかいきなりぶっこんできた 336 :774の刀剣男士 釣り宣言はよ 337 :774の刀剣男士 >>336 おまえは>>1を100回読み直せ >>334 事情があるようだから、刀剣男士以外は今すぐ出てけなんて言うつもりはないが 審神者板じゃだめだったのか? 刀剣男士がアクセスできないからリンクこそ貼ってないが、そっちにも質問スレはあるぞ? 338 :328◆YUizNdzbzH >>336 釣りじゃないです >>337 こんのすけに協力してもらって試してみましたが 私は審神者じゃないので無理でした 339 :774の刀剣男士 さらにぶっこんできたぞ! 340 :774の刀剣男士 審神者じゃないヤツがなんで本丸にいるの? 341 :774の刀剣男士 審神者板に接続できないってことは主はいないの? 342 :774の刀剣男士 328◆YUizNdzbzH はもしかして見習い? 343 :774の刀剣男士 ──不穏な気配を察知── 344 :774の刀剣男士 >>334 328◆YUizNdzbzH は話聞いてくれとか言ってるけど そもそも何が目的でこのスレに書き込んだわけ? 345 :328◆YUizNdzbzH とりあえず後出しするのもよくないので、必要そうなことをすべて書きます まず、私が今いる本丸は6ヶ月前にブラック本丸認定を受けました ただし、審神者との契約はすでに解除されているのでご安心を この本丸の刀剣男士の方々は、人間に対して恨みはないそうですが 前審神者のせいで荒れた仲間を鎮めることを最優先に望み 政府からの支援をすべて断っていたそうです 私がこの本丸に来たのは、その荒れた仲間の方に会うためでした いろいろあって問題が解決したので、帰ろうと思ったのですが 問題解決時のいざこざで本丸の機械部分が壊れてしまったようで 政府への門を開くことも、通信を送ることもできない状態です なんとか外部と連絡を取る手段がないかと探したところこんのすけが 審神者の霊網脈を利用した審神者板へなら接続できないかと思いつきました 結果は私が審神者じゃないのではじかれてしまったわけですが 次にこんのすけが思い出したのが 審神者板への接続と同じ原理を利用した刀剣男士板への接続でした 本丸の刀剣男士の方々に協力をお願いしたところ、快く応じてもらえたので 今こうして書き込むことができています 私がみなさんにお願いしたいのは、政府とのつなぎです 政府と連絡が取れない状態になっている本丸があると政府に伝われば なんらかの対策を取ってくれると思うんです みなさん、どうか助けてください 346 :774の刀剣男士 おうふ、黒本丸・・・! 347 :774の刀剣男士 これってスレチ? 黒本丸関連スレに誘導した方がよくね? 348 :774の刀剣男士 >>347 もう審神者本人は政府に回収されてるみたいだしいらんやろ というか、そもそも板違いなのに誘導した方が荒れる 349 :774の刀剣男士 これ、本丸への救援要請を頼むってことなんだよな? でも俺たち刀剣男士が政府に報告することはできないから 主にこのスレ見せなきゃいけなくなるんだけど 350 :774の刀剣男士 >>349 それな 一応、閲覧も禁止だろこのスレ まあ刀剣男士板のスレは全部そうだけど 328◆YUizNdzbzH は仕方ないとしても、例外を作りすぎるのはどうかと 351 :774の刀剣男士 なあ、話長くなりそうだし専スレ立てないか? >>350のいうとおり、例外としてこのスレをそれぞれの主に見せるとなると 他に相談したいやつが書き込めなくなるだろ それに、前の方の相談がうっかり目に付かないとも限らないし 昔の騒動で刀剣男士板と審神者板の完全住み分けが推奨されるようになったけど もともと刀剣男士板は、閲覧だけなら審神者も自由だったろ 各スレの閲覧禁止は、あくまで自主ルールなんだよ じゃあ、審神者や政府関係者も閲覧OKな専スレ立てればいいじゃん? 352 :774の刀剣男士 >>351 一理ある 353 :774の刀剣男士 >>352 それが無難か 元々、長くなる時は専スレ立てること多いしな 354 :774の刀剣男士 誰がなんて立てんの? 355 :351 言いだしっぺだしオレが行くわ おーい、328◆YUizNdzbzH コテ328だとレス番と混乱するからなんか他の名前頼む 356 :774の刀剣男士 やだ、この351ぐう有能・・・(トゥンク 357 :774の刀剣男士 328だと、審神者じゃないのに審神者みたいだしな 358 :774の刀剣男士 >>357 確かにwww 359 :774の刀剣男士 >>357 気づいてなかったわw 360 :片羽◆YUizNdzbzH >>355 351さん、わざわざありがとうございます コテは片羽◆YUizNdzbzHでお願いします 誘導待ってます 361 :774の刀剣男士 かたはね? 362 :片羽◆YUizNdzbzH >>362 カタハと読みます 知り合いによくそう呼ばれるので 363 :774の刀剣男士 もしかして現世のあだ名? あまり馴染み深い名前を晒さない方がいいよ 名前ってのは呪いの媒介にもなるからね 364 :片羽◆YUizNdzbzH >>363 ご忠告ありがとうございます なんか政府の人に話をつけてくれた知人が、私を片羽と紹介したらしく 政府との連絡用にさらすつもりだった名前なので大丈夫です 365 :ぐう有能な351 立てたぞー!さあ移動はよ(バンバン 【救援】328◆YUizNdzbzH を救援するスレ【求む】 http://… 366 :774の刀剣男士 >>365 もう立ったのか!はやい!これで勝つる! ていうかおまえ名前www 367 :774の刀剣男士 >>365 謙虚じゃない刀剣男士がいたwww 368 :774の刀剣男士 片羽◆YUizNdzbzH のコテが328のままな件について 369 :ぐう有能な351 一応現世で呼ばれてる名前みたいだし あまり大多数の目に触れるようにしない方がいいかと思って 370 :774の刀剣男士 こやつ、やはり有能・・・ 371 :774の刀剣男士 これはぐうの音も出ませんわ 372 :774の刀剣男士 コントしてる間に片羽◆YUizNdzbzH は移動してるな 373 :774の刀剣男士 じゃ、次の相談者がびびらないようにこっちは軽く雑談で流すか 質問【今日の夕飯のおすすめ献立】 375 :774の刀剣男士 ハンバーグ 376 :774の刀剣男士 鍋 377 :774の刀剣男士 >>376 少数のときは手抜き料理だったのに、人数が増えるにつれて戦争と化すメニューきた さんまの塩焼き ・ ・ ・ ジェミニ:一縷の祈り【刀剣男士とJKの話】3 v4  離れに足を踏み入れた瞬間、体にまとわりつく呪いの気配に、江雪と宗三は口元を押さえた。  こんな場所に『あの子』は半年もこもっていたのかと思うと、平静を保つことが難しく、口の中にじわりと鉄さびの臭いが広がった。  この本丸にいるすべての刀剣男士たちにおいて、この離れの存在は、ここで審神者をしていた男の忌まわしい記憶に結びついている。だから江雪も宗三も、まじまじと室内を観察するのが戸惑われて、視線を部屋へと続く襖へと逃がした。  結果として、それは失敗だった。  先にここを通ったであろう少女が開けたのだろうか。人が一人すり抜けられる隙間だけ、襖が開いていた。その向こうに、傷だらけの板の間がのぞいている。  そこは、この離れにおいて、何より刀剣男士たちを苦しめた部屋だった。  江雪と宗三は、知らず体を硬直させた。  その部屋があるから、一期は離れに足を踏み込むことができなかった。  江雪と宗三は、覚悟していたつもりだった。しかし、過去の恐怖に結びつく記憶を、捨て去ることができなかったようだ。  江雪と宗三の位置からは、襖の隙間に対して角度があり、部屋の奥の方まで見通すことはできない。  あの少女を追って、部屋に踏み込まなければならないのに、部屋に入ることはおろか、中の様子をうかがうために、見える位置まで移動することすらできなかった。  母屋よりずっと重苦しい呪いの気配のせいか、体が重い。両の足の裏が、地面に張り付いてしまったかのように動かない。  いったいどれほどの間、そうしていたのだろう。江雪も宗三も、行くことも引き返すこともできず、ただただ立ち尽くしていた。それは、ずいぶん長い間だった気も、数回瞬きをするていどの短時間だった気もする。  そんな二人を動かしたのは、離れを満たす気配の変化だった。  それは、唐突に訪れた。今まで、離れを中心に渦巻いていた呪いが、突然その性質を変えたのだ。  離れに集まるように淀んでいた呪いが、中心となる軸を失って乱れる。拠るべき瀬を見失ったかのように、呪いが離れからあふれ出す。氾濫だ。  では、呪いの根源であった『あの子』はどうなったのか。  腹の底がぎゅうと縮こまるような恐怖が、江雪と宗三を襲った。  今度は、立ち止まらなかった。  過去の恐怖がなんだ、そんなものもはや失われた亡霊ではないか。その恐怖をただの亡霊に変えてくれたために、『あの子』は長らくこんな場所にこもることになったというのに。  ほとんど押し破るように襖を開け放つ。  痛々しい傷跡が残る床が、呪いの残滓を嗅ぐわせる。しかし、呪いの中心であった場所は、ここではないのだ。  機動の値のため、宗三は江雪に先んじて、板の間の奥の畳の間に向かった。  襖と同様に、乱暴に扱われた障子が、かろうじて敷居の窪みを飛び出さずに横にすべる。壁に叩きつけられて、ピシャリと不平の音を立てた。  しかし、江雪も宗三も、物言わぬ物の訴えに耳を傾ける余裕などなかった。 「小夜? どこです、小夜!」  宗三の声に、しかし返事はない。  ここにいるはずの『あの子』の姿も、先に来たはずの少女の姿もないことに、嫌な予感だけが募っていく。  声を荒げて押入れなどを荒らす宗三の背を見ながら、江雪は考えた。あの少女は、なんと言っていただろう。  確か、お願いするのだと言っていた。呪われた彼女の友人を解放してくれるように、などと。  あの時はあきれ、道理を知らぬ娘だと馬鹿にする気持ちがなかったとは、けっして言えない。  しかし、もし本当に少女が本気だったなら。  そんなことはありえないとわかっている。しかし、もし万が一。いや億が一、あの少女の友達を呪ったのが『あの子』で、少女がここまで来たというのなら。  あの真摯な少女の訴えに、『あの子』はなんと答えただろうか。  いや。そもそも、あの少女は見た目の通り、本当に無能の者だったのか。友達のためという言葉が、嘘だったとは言わない。しかし、どんなコネがあったとて、こんな異界の領域まで来る人間が、まったくの無能であるものか。  少女は、刀剣男士は誰も傷つけないと宣言した。果たしてそこに、呪いの蝕まれた『あの子』は含まれるのか。  カタリと音がして、ハッと横を見た。  閉め切られていたはずの窓板が、ほんのわずかに浮いていた。  一方、離れの外に残った一期のところには、母屋を飛び出してきた刀剣男士たちが集まっていた。  いの一番に駆けつけた薬研に、未だしゃくりあげる五虎退を預けた一期は、粟田口の短刀や脇差だけでなく、他の刀派の者まで続々と駆けつけはじめたことに驚いた。 「一期君、大丈夫?」 「は、はい。しかし、これはいったい……」 「石切丸君が、全員が行くことはないって一度止めてくれたんだけどね。五虎退君がいないことに気づいたら、もうみんな気もそぞろで、結局こうなっちゃったんだ」 「それはとんだご迷惑を……」  恐縮して、集まった者たちに頭を下げる一期に対し、みんな気にするなと笑って見せた。  粟田口派吉光が作の長兄として気丈に振舞ってこそいるが、この本丸が開放されたあの日以来、彼が五虎退に劣らぬほど塞ぎこんでいるのは周知の事実だった。辛い時期を支えあって耐え忍んだ分、この本丸の刀剣男士たちの仲間意識は、刀派に関わらず非常に強い。  そして、ようやっと足の遅い者も、そろって庭に姿を現した。  五虎退の無事な安堵したためか、ここでようやく『そういえばあの少女は?』と、誰かが思い出したかのように声をあげた。  少女が向かった先などわかりきっているのに、みな一様に離れに視線を向けようとはしない。みんな、過去を直視したくないのだ。あるいはできないのか。  その時。短刀と脇差の数名が、はじかれるように振り向いた。他、大太刀も抜刀の構えを取る。  その動きに、他の刀剣男士もそれぞれ刀の柄に手をかけて。 「みな……っ」  おそらく警告であっただろう声は、しかしみなまで発せられる前に呑み込まれた。  長らく外界の干渉を拒み、固く閉ざされてきた離れ。そこにはのろいがはびこり、濃い祟りの気配がよどんでいた。  その離れの戸が、今開かれている。もっと早くに予想してしかるべきだったのだ。  離れの母屋から遠い側の窓。閉ざされているはずのそこから、呪いがあふれ出した。  それは、物理的な視認を許すほどの、深い深い呪いだった。  月のない夜より深い闇。呪った者はただ一口、呪いの先もただ一人だったはずなのに、いまや無数の怨嗟の声を伴う、重すぎる祟り。  離れに収まっていたとはにわかに信じがたい質量が、水の詰まった袋のような動きで、ごろんとあふれ出た。  あっけに取られ、身じろぎひとつできない刀剣男士たちの前で、それはまるで生き物のようにかま首をもたげた。首がゆっくり、くるうりと刀剣男士たちの方を向いて。  瞬間、その頭にあたる部分がはじけた。 「うわっ」  飛び散った呪いの飛沫を、みんな身をのけぞらせて避ける。本能的な忌避だった。  あれは、自分たち刀剣男士にとって、とても恐ろしいものだ。決して触れてはいけない。そう、警鐘が鳴り響く。  そうして刀剣男士たちが避けたあとに、闇がひとかたまり転がった。  べちゃり、絵の具のように散った闇から、白がのぞく。 「いてて……」  むくりと身を起こしたのは、なんとあの少女だった。  糸を引く闇を振り払い、少女が立ち上がる。少女の体に付着した闇は、身震いひとつで簡単に霧散した。しかし、彼女が腕に抱える物には、未だ闇がヘドロのようにこびりついている。  それが、少女が後生大事に闇のかたまりを抱えているように見えて、遠巻きに様子をうかがう刀剣男士の何人かは、眉をひそめた。  その時、はじけた首の跡から、糸を引きながら闇が滴った。それは、少女が抱える闇と引き合うように、少女のかいなへと落ちてくる。  まるで、少女が抱える物を取り戻そうとしているかのように、ポタリポタリと垂れたしずくが、何重にも糸を引いて、少女の腕にまとわりつく。  少女は、左手を激しく振り乱して、その糸を断ち切った。 「だから触らないでってば!!」  声を荒げた少女に、何人かが肩をびくつかせる。それくらい感情のこもった声だった。  そうして、少女は右手で抱えていた物を振るった。  ピンと伸びた背筋。流れるような腕の動き。それは、刀身についた血糊をきる刀剣男士のような、自然な動作だった。  そして、その一振りで闇が振り払われる。きらめく刃。全員が、あっと息を呑んだ。  その刃の名を、みんなよく知っていた。  見間違えるはずもない、その姿。かつて、この本丸の主だった男の急所を突いた凶刃。  小夜左文字が、少女の手に握られていた。  呪いのかたまりが、まるで意志を持つかのようにほえた。途端、真黒の闇が、いくつもの奔流となって少女におどりかかる。  誰もが息を呑んだ。  しかし、少女は背筋を伸ばしたまま微動だにしない。  闇に触れる直前、少女は刃を持つ右手とは逆の、左手を掲げた。荒事にはとても向かなさそうな、細い指に、小さなてのひら。闇の流れがそれに触れた瞬間、なんとそこから霧散した。二つ、三つ。そうやって、すべての奔流をやり過ごしてしまう。  少女は、はじめの場所から一歩たりとも動いていない。  もう一度、呪いがほえた。  まるで、太陽が雲に陰ったかのように、辺り一帯が暗くなった。いや、元々曇り空だったのだから、突然夜になったというべきか。 「うっ……」  刀剣男士の誰かが、呻いた。  一人、二人。耐え切れずに膝をつく。  今日まで離れの中に押しとどめられていた呪いが、今本丸全体を薄もやのようにおおっていた。  いや。離れの中にあったはずの呪いは、闇のかたまりの形をして変わらず目の前にある。それならば、これは呪いが呼んだ新たな呪いなのだろうか。  呪いにじかに触れてはじめて、刀剣男士たちはその本質を知った。  忌避して当然だ。これは正しく呪いであった。  刀剣男士たちは今までずっと、離れに渦巻く呪いは、小夜左文字が主を殺したときに吐いた呪詛だと思っていた。だからこれは、小夜左文字から審神者だった男に対する呪いなのだと、ずっと勘違いしていた。  しかし、違ったのだ。これは、刀剣男士に対する呪いだ。主殺しをした付喪神を零落させ、祟り妖怪へと変じさせる、凶悪な呪詛だ。  ただ一人、背筋を伸ばして闇の真正面に立つ少女が、声をあげた。 「さよは誰も祟らない。もう復讐もしない、必要ない。  だから、さよを離して!」  どういうことだ。全員が目を見張った。  だって、この本丸の刀剣男士たちが、外部の人間と触れ合う機会などなかったはずだから。  なのに、あの少女はどうして小夜左文字の名を叫ぶ。  少女の訴えを拒絶するように、地面がわなないた。  たまらず、少女はバランスを崩して倒れこむ。その地面に、亀裂が走った。  少女の様子を見守ることしかできなかった面々が、あっと息を呑む。  その時、少女の体が跳ね起きた。  今まで、素人であることが一目瞭然の足運びをしていた体が、一転してとてもしなやかに動く。それは、闇を刀身から振り払った時に、一瞬だけ見えた気がした、刀剣男士の動きだ。  抜き身の刀身を右手に構え、襲い来る闇の腕をかいくぐって、その大元に肉薄する姿に、誰もが見覚えがあった。 v5  さよの核とでもいうべき本体が、今自分の手の中にある刀だということは、少女もずいぶん前から知っていた。  闇の中から、刀は連れ出した。しかし、まだ完全ではない。さよを呪う大元を断ち切らない限り、さよを取り戻すことはできない。  さよを開放してほしいという少女の乞いを、しかし呪いは拒絶した。  途端、襲い来る地割れ。  だが、未だ呪いの影響下にあるとはいえ、さよの本体は少女の手の中にある。さよが少女の体を起き上がらせ、呪いの元へと駆らせた。  少女は、何も勝算なく『お願い』をしようとしたのではない。もし、この呪いがただの怨念の集まりなら、お願いするまでもなく、吹き飛ばしてやったところだ。  しかし、この呪いには核があった。刀剣男士を呪う念を引き寄せた、はじまりがあった。それを蹴散らすような真似を、少女はしたくなかった。  少女は闇に掴みかかる。  やはり、なんの感触もなかった。しかし闇は、少女に触れた場所から、引き千切られるように消えてゆく。  自身の体に叩きつけれらるいくつもの闇のかたまりを、少女はそよ風ていどにも感じないようで、かまわず闇を掻き分けた。  少女は、この呪いの核に訴えなければならなかった。何故なら、その核となった存在の救済も望んでいたから。  夢中で掻き分けた先で、三白眼がチカリと光った。  少女は抱いた剣の柄を握り締め、反対の手を伸ばして口を開いた。 「小夜左文字!」  三白眼が瞬いた。  本来、白目であるべき部分は黒く、青い光を反射するはずも瞳孔も、すべての光を吸い尽くしてしまったかのように深淵をのぞかせている。そこに繋がる肌も、それをおおう髪も、すべて闇色だ。  しかしその作りは、少女のよく知る少年のものと同じだった。  見知らぬ少年の瞳が、少女を見つめ返す。 「ねえ、小夜左文字!  私とさよは一緒に行くって決めたから、君にさよは返してあげられない。でも、君がとても苦しんだことも、苦痛に対する復讐なんかより、残された人たちを心配していたことは、私たちが知ってるから!」  少女の腕の中で、刀剣がじわりと熱を持った。  いまや、少女と少年は、目と鼻の先ほどに接近していた。 「君は復讐なんてできなかった。しなかった!  君の意義は復讐なんかじゃない、家族を大切にすることで、君の家族は仲間だったんだよ。  だから、もうこんな場所にいる必要ないんだよ!」  そう、少年は少しばかり、帰り道に迷ってしまっただけなのだ。  しかし、少年のような存在が道に迷った末、消えずに在るべき場所に還れるというのは、とても稀有なことだ。その奇跡を、少女は今、もたらそうとしていた。  はじまりは、少年が、小夜左文字が折れたことだった。  折れた小夜左文字は復讐を望み、それ以上に残された仲間たちを案じて、本霊にも帰れずさまよった。  それを、少女が拾い上げた。  少女の呼ぶ『さよ』の名で再構成されたさよは、ほとんどの記憶を失って、長らく少女のそばにあった。忘却してなお、さよの胸の内にくすぶる復讐の火は消えなかったが、唯一無二の友として自身を慈しむ少女に、いつしかさよも同じだけの情を返すようになっていた。  何より、塵と消えようとする魂と、孤独な夜に胸の虚に泣く少女。ただ慰め合うには、互いの欠落が多すぎた。お互いの虚を埋めあうように、二人はひとつになった。まるで連理のようだな、とわらったのは誰だったか。  覚醒は突然だった。ある日突然、さよは小夜左文字の記憶を得た。  どうやって時空を飛び越えたかも覚えていない。気づけばさよは、かつて審神者と呼んだ男に刃を突き立てていた。  そして、どろりとした闇が、さよの体から湧き出した。  つまり、審神者の男を殺そうとしたのは、小夜左文字だった。小夜左文字が望んだ。  しかしそれはかなわず、その後を継いだのがさよだ。さよはその時すでに、厳密には小夜左文字ではなくなっていた。それでも縁は繋がっていたから、小夜左文字の念に引きずられるように、その刃に光をそり返させた。実行したのはさよだった。  そして、主殺しの呪いが、小夜左文字の残滓とさよを、等しく蝕んだ。主殺しの付喪神を零落させようとする呪いが祟りを生み、一帯は一瞬にして祟り場と化した。  おかしな話だ。  だって、小夜左文字は主を殺していない。できなかった。  さよの主は殺した男ではない。『彼』は男の小夜左文字ではないから。  なのに、呪いは二人を同一視し、祟り妖怪へと零落せしめようとしている。  さよは、小夜左文字との完全な決別によって、この呪いを半分振り払った。  さよは小夜左文字ではない。だから、あの男は主ではない。さよの唯一無二は、後生ただひとり。  しかし、切って切れないのが縁である。さよの方から振り払ったとて、縁を伝って、まだ呪いは続いている。残りの半分は、小夜左文字が振り払わなくてはならない。  だから、少女は懸命に呼びかけたのだ。小夜左文字は復讐していないのだと。彼の最後の心は、復讐ではなく、残されるものの安否にあったことを思い出すよう、強く訴えた。  少女は小夜左文字を知らない。しかし、自分にさよをもたらしてくれた存在に、感謝していた。だから、安らぎの待つ場所に送り還してやりたいと思った。  もう、すべて終わった。こんな見当違いの呪いに付き合ってやる必要はない。還っていいのだ。  開放してやりたいと願ったのは、さよと小夜左文字、二人のことだった。 「──うん、いいよ」  聞こえた声に、少女は瞬いた。  見つめる先で、少年が受け入れるように両腕を広げる。無防備な胸元がさらけ出された。  そして、少女の意識の外側で、右腕が振り上げられた。肩が引かれる感覚に、少女もそれに気づいた。 「……っ」  少女は、自分の意志で、その右手に左手を添えた。  刃が、振り下ろされた。  感触は、なかった。音もしなかった。すべて、今まで闇を振り払ってきた時と、何一つ変わらなかった。  もはや存在しないもの、あるべきでないもの、現世に血肉を持って干渉するだけの力を持たない無象ども、それを振り払っただけ。それだけだった。  刺した場所から、闇色の少年が霧散する。ただ、見詰め合った瞳まで掻き消えてしまうその寸前、うっすらその目が笑った気がした。  そうして、小夜左文字は還っていった。  折れてから、あまりに遠すぎた安寧の時だった。  不意に、桜花のひとかけらが宙に浮いた。  それは、小夜左文字の残滓がいた場所にひらい舞い落ちて、手の平に捕まえた早すぎた雪のように、あっけなく消えた。  つい先ほど突き立てた刃を胸に抱き、少女は手の甲で目元を拭った。  しかし。  そんな余韻に浸る間も許さぬという風に、空気が震えた。  ビリビリと肌を刺激する震動に、少女は動揺したように、より強く刀を掻き抱く。  許さない。そんなことは許さないと、呪いが叫んだ。それはコトワリだった。誰かが思いついて、時間をかけてまことしやかに囁かれてきただけの、つまらない決まりごとだ。  主殺しは許されないのだ、逃がさない、呪われてあれと、空がわなないた。  空が夜闇に染まる。本丸をおおう、呪いの気配が濃くなった。  ヒュウと呼気を鳴らし、少女は胸いっぱいに空気を吸った。  その背筋がピンと反り返る。 「うるさあああああああああああああい!!!」  今まで、息を呑んで少女の動向を見守ることしかできなかった刀剣男士たちが、耳を押さえてうずくまった。  少女はよっぽど興奮しているのか、肩で息をしている。  宙をにらみつけ、ギリと奥歯をかみしめた。  呪いも、怨嗟も、つまらない誰かの妄想も、取るに足らない伝統も、全部全部、追い払うと約束した。  本当につまらない呪いだ。くだらない妄想だ。そんなものはいらない。ましてや、もう小夜左文字もいないのに、往生際悪く居残るなんて許さない。  小夜左文字の残滓という核を失って、闇の姿をした呪いは霧散した。だからお前も消えてしまえと、少女は宙に吐きかける。 「あんたたちに許してもらう必要なんてない! 帰って!!」  それは子供のような地団駄だった。全身を使ってアピールすることしか知らない、子供のやり方だ。  しかし、少女は知っているのだ。形のないものに対し、血肉を持った者が明確な意思を持って拒絶を表せば、決して負けはしないのだと。  一陣の風が吹いた。  遠くからバキバキと、何かが剥がれ壊れる音がする。庭の草が荒れ狂って踊る。そばの木が、今にも半ばから折れそうなほど、激しく揺れ動く。  少女は、飛んでくる細かな石や折れた枝葉から身を守るため、地面に伏せるように身をすくめた。  そして、風が止んで顔をあげる。  青い空が広がっていた。  少女が、この本丸に足を踏み入れたときの曇天は見る影もなく、遠くに入道雲が立ち込める、夏のすがすがしい空が広がっていた。  本丸は台風一過のごとく静かで、未だ虫の音もしない。しかし、じわりと首筋を熱する日差しは、確かな夏の気配を本丸に知らせていた。  少女は息を吐いて、腕に抱えていた刀を両手に乗せた。  鞘などない、抜き身の刃だ。かなり強く抱きしめた時もあったはずだが、しかし少女には傷ひとつない。  さよに未練がましく追いすがった呪いは、もうない。ではさよはどこに。  夏の日差しを受けてチカチカと光る刃先を、少女はじいっと見つめた。  その時、桜吹雪が舞い起きた。 「さよ!」  少女が腕を広げて、飛びつくように桜吹雪の主を抱きしめる。  彼女が持っていたはずの刀剣は、いつの間にか抱きしめた相手の手に渡り、かちりと音を立てて、その腰の鞘にしまわれていた。 「全部追い払ったよ!」 「うん」 「ここに来るまで、いっぱいいっぱいがんばったよ……!」 「ああ」  少女に抱きしめられた少年の腕が、少女の背に、そして頭に添えられた。  ポンポンと、やさしく労わるように撫でさする。 「ありがとう。おつかれ。  ──さあ、もう休んで」  小柄な体躯に反し、低く落ち着いた声。それが、少女の耳元で囁いた。  少女の目が、トロンと融けるようにまぶたを落とす。そうして、少女はあっという間に、少年に身を預けるように四肢を垂らしてしまった。  あとは、すうすうと穏やかな寝息が聞こえるのみ。 「ただいま、僕の──……」  さよと呼ばれた少年が囁いた名を、彼だけが知っている。 ジェミニ:一縷の祈り【刀剣男士とJKの話】2 v2  本丸という施設は、主が特別な改装を行わない限りは、大体同じ造りになる。なので、それを知っている者なら、はじめて訪れる本丸でも、迷うことはない。  しかし少女は、他の本丸のことなど知らない。にも関わらず、自身の向かうべき場所を知っているかのように、その足取りに迷いはなかった。  やがて、少女は雨戸が閉め切られた真っ暗な廊下にたどり着いた。ただでさえ薄暗い土地なのに、足元すらおぼつかない真の闇だ。  さすがに少女は一瞬躊躇して、足を緩めた。しかしパッと横を向くと、雨戸に取り付く。  雨戸は立て付けが悪いのか、ガタガタと揺れる。しかし、少しだけ隙間を作ることに成功すると、少女はそこに足を割り入れて、強引に蹴り開けた。  明るい、というには無理のある曇り空だが、それでも閉め切られた廊下とは雲泥の差だった。何かに蹴つまずいてしまうより、ずっといい。  少女は外に飛び出した。  少女は靴をはいていなかったが、気にする様子は見せなかった。靴下の方はちゃんとはいているので、よっぽどガラス片でも散らばっていない限りは怪我の心配はないだろう。屋内を歩き回った時点でドロドロになっていたので、今更汚れを気にすることもない。  少女が降りたのは、ちょうど庭に埋め込まれた平たい岩の上だった。  まるで少女をいざなうように、飛び石が庭の奥へと続いている。正しく、それが少女の求める道だった。  その先に、小ぢんまりとした家屋(本丸の母屋に比べたらの話で、人が生活するには十分な一軒家程度のサイズはある)が建っていた。  飛び石を渡ってそこに駆け寄った少女は、しかし数歩手前でギョッと足取りを緩めた。  飛び石の終点。少女が行く先の家屋の前に、少年が一人うずくまっていた。  薄汚れてはいるが、触らずとも容易に想像ができる、柔らかな銀糸の髪。服は破損がひどく、左腕などは肩口から血のにじむ素肌をのぞかせている。しかし、残された部位から読み取れる意匠に、少女は見覚えがあった。  つい先ほどまで対面していた刀剣男士の中でも、特に小柄な姿を中心として集まっていた者たちが、似たような色や材質の服を着ていた気がする。  あそこには、すべての刀剣男士がそろっていると思っていたのに。  はて、この少年はどうしてここにいるのだろうと、少女は首を傾げる。  ともかく、どいてもらわなければならなかった。  なにせ、この少年は、家屋の玄関に当たる位置にもたれかかっていたので。 「あの、生きてる?  動けるなら、通してほしいんだけど……」  刀剣男士というものは憑喪神の一種であり、見た目どおりの存在ではないことは、少女も知っていた。しかし、小学生程度の背格好をした相手に敬語を使うのはどうにも具合が悪く、平素の口調に戻ってしまう。  少女がそっと揺り動かすと、少年が顔を上げ、うっすらと目を開いた。褐色がかったおちついた金色の虹彩に、ハッと息を呑むような黒々とした瞳孔が光る、美しい目だった。 「あなたは……新しい政府の人、ですか?」 「え、いや私は」 「帰ってください……」  少女の答えも待たず、少年は少女を拒絶した。 「えっ、なんで?」 「ここには、すごい祟りがあるんです。祓いに来たって人たちはみんな、中に入る前に逃げ帰っちゃいました。  ……いつも、僕たちを気遣ってくれて、すごくやさしかったのに……助けられないなら、触らないで。お願いだから、帰ってください……」  今にも泣き出してしまいそうな、震える声音だった。 「私は逃げないよ。祟りも怖くない」  少年が少女を見上げる。 「……あなたは、今まで来た人間たちより、そんなすごい人なんですか?」 「他人と比べたことないから、すごいのかってのはちょっとわからないけど。  あのさ、祟りっていきなり首絞めてきたり、殴りかかってきたり、天井落としてきたり、見たいな物理攻撃してくる?」 「くびし、め?」  少年は、わけがわからないというように首を傾げた。 「祟りは、死の指先です。近寄るものを腐らせ、触れたものを死で蝕むんです」 「じゃあ、大丈夫。近寄れるなら問題ないよ」  少女は満足そうに頷くと、少年の肩を押して、玄関の前からどかせた。 「でも、あの……その戸、閉ざされちゃってて……」  おどおどする少年の前で、少女は玄関の戸に、そっと手を当てた。 「逢いに来たよ」  何の抵抗もなく、戸は開いた。  驚き固まる少年の前で、少女はするりと家屋の中に入っていく。  その背を見送ることしかできず、少年はぺたりと地面に座り込んだ。 さて、どれほどへたり込んでいたのか。少年は、肩を揺さぶられて我に返った。 「五虎退! どうしてここに」  五虎退、と呼ばれた少年は、かたわらに膝をつく青年の姿を見上げて、じわりと両目を潤ませた。 「い、いち兄……」 「お前、広間にいなかったのか。何があったんだい?」 「ご、ごめんなさい。ごめんなさい……!」 「ああ、怒ってるわけじゃないんだよ」  兄と呼ばれた青年、一期一振は、五虎退を抱きしめて、その背をなでた。 「開いている……」  呆然とした声が、一期の頭上から降ってきた。  見上げれば、江雪左文字が離れ屋敷の戸に手をかけているところだった。その後ろで、宗三左文字が着物の袖で口元をおおっている。  開いているとは。離れは、他ならぬ祟りの根源自身の手によって、閉ざされているのではなかったのか。  だから、今まで誰も、捨て身になることすらできなかったのだ。  一期が問うより先に、カラリ、軽い音を立てて、離れの戸が開いた。 「なっ」  江雪の手は、戸の取っ手を軽く押しただけだったが、戸は慣性によって完全に開き、離れの入り口が開かれてしまった。 「これは、いったい……?」 「あの娘のしわざ、と考えるのが妥当でしょうけど」  一期に答えた宗三の声は、信じがたいというように疑念に満ちている。 「お、女の人が来て」  嗚咽交じりに五虎退が声を上げた。 「それで、小さな声で『あいにきたよ』って……そしたら、開いたんです」 「声をかけた、それだけで?」 「それだけ、です……  近寄ったら腐っちゃうって、止めたんですけど……でも、逃げない、怖くないって……」  離れ屋敷の中から、何も音は聞こえない。  江雪と宗三は視線を交し合った。 「行くのですか!?」  無言で敷居を越えた二人に、一期がギョッと声を上げる。  二人は振り返らなかった。  一期はなにも言えず、五虎退を抱えたままで、その場に居尽くした。  にわかに、母屋の方から騒がしくなったのに気づいたが、そちらを向くこともできなかった。 v3  少女は玄関をくぐると、後ろ手で戸を閉じた。  日本家屋造りなのは同じはずなのに、先ほどまでいた本丸の母屋とは違う雰囲気を感じる。  少女は靴箱のふちに指を滑らせた。埃がたまっている時のざらりとした感触がないことに、瞬く。母屋の方は、埃とよくわからない油っぽい泥でベタベタだったのに。  脱ぐべき靴もないため、少女は靴下のまま家屋に上がった。  最初に少女を出迎えたのは襖で、少女はそれを躊躇なく開いた。  襖の向こうは、板張りの床の部屋だった。  何もない殺風景な部屋だ。なぜ畳を引かなかったのだろうと足元を眺めて、少女は気づいた。床板には、普通の生活の中ではまずつかないような、無数の傷がついていた。  家具を引きずってしまったから、なんてかわいらしいものではない。明らかにえぐったような深い跡もある。少女は、自宅でアイロンを取り落とした時にできた、床のへこみを思い出した。それより酷い傷が、いくつもあった。  少女は床を見るのをやめた。傷跡に、黒い汚れがこびりついているのを見たのだ。床板の色が濃かったので、すぐには気づけなかったが、その汚れがある場所は、水か何かをこぼした時のように染み色がついている。  少女は、小走りで部屋を横切った。  板張りの部屋の奥は、今度は障子によって仕切られていた。  早く板張りの部屋を抜けてしまいたいと思ったのだろうか。襖の時より、やや性急に障子が開かれる。  たぷん、と闇がたゆたった。  少女は、しょうじを開いた体勢そのままで固まった。  え、と声にならない声を、口が形作る。  何度瞬いて凝視しても、目の前の光景は変わらない。闇が、隣の部屋を満たしていた。  いや、そもそもしょうじの向こうにあるのは部屋なのだろうか。ひょっとしたら廊下かもしれない。  ともかく、見通すことのできない真黒の闇が、液体のようにたゆたって、障子の向こう側を満たしていた。  この闇が、見た目どおり水のような性質を持っているなら、隣の部屋は重力の向きがおかしいのかもしれない。闇は、こちらの部屋にあふれてくるようなことはなく、ぬらりと照り返しながら、湖面のように静かに揺れている。  少女は、胸に手を押し当てて深呼吸をした。  前に進まなければならなかった。この闇の中が、少女の行くべき先だ。ここまで来れば、少女の待ち人は、もうすぐそこにいるのだとわかった。  まずはじめに、右手を伸ばす。少女の接近に反応したのか、ざわりとミナモが揺れる。かまわず手を差し入れれば、闇が波立った。しかし、少女は何も感じない。  少女は瞬いて、そっと一歩前進する。ずぶずぶと左腕が闇に飲み込まれる  少女は、右腕も闇へ差し出した。  もう、少女の目と鼻の先で、闇がたゆたっている。  深く息を吸い込み、少女は目を閉じた。次の瞬間、大きく前のめりになり、前に踏み出した。  闇のミナモに飛び込んだ少女は、ゆっくりと瞬きした。目には、特に刺激を感じない。  次いで、胸いっぱいに吸い込んだ空気を吐き出す。そして、そっと息を吸えば、呼吸ができることも確認できた。  どういう原理かこの闇は、外側から見た時は水のような質感を持ち、ひとかけらの光も通さないくせに、触れば霧のように実体がなく、呼吸も阻害しないことから空気と同等の成分で構成されているようだ。  少女は改めて周囲を見渡すが、やはり何も見えない。文字通り、無明の闇というやつだ。  少女は、足裏の感触を頼りに、また一歩踏み出した。  何も見えないというのは存外不自由なもので、ともすればまっすぐ立っているのかすら怪しくなる。自然、少女の足は床から離れるのを嫌がり、その歩みはすり足となった。  足裏で床をなでることで、少女は床の独特な感触を繊細に感じ取った。板張りの床よりやわらかく、踏みしめることでわずかに沈む、マットのような感触。微細な凹凸が繊維状に走り、特定の方向にだけ妙に靴下の滑りがいい。少女は、その感触に馴染みがあった。鼻に煙る、線香のにおいを思い出す。両親の実家の仏間に敷かれていた、畳だ。  となれば、ここは先ほどの板張りの部屋と障子で区切られた、隣の部屋なのだろう。廊下に畳を敷くという話は聞いたことがない。  しかし、そんなことがわかったとて少女の助けにはならない。  少女が求めるものは、もうすぐそばにある。それだけは確かなのに、こんな真っ暗闇の中では、一歩前に進むことすらままならない。  いっそ、四つんばいになって這ってでも進もうか。  そんな少女の思惑は、一瞬にして吹き飛ぶことになる。 「本当に、来たんだね」  何の予兆もなく、『彼』は姿を現した。  少女は息を呑む。あんなにも逢いたかった『彼』。二人が共にあった時、二人は互いの大切な友達だった。唯一無二の半身だった。  その『彼』は今や、この深いよどみに囚われ、侵食されて、別の何かに変わろうとしている。いや、もう変わってしまったのか。  それでも、少女はかつてのように答えた。 「どんなに離れても逢いに行くって、約束したからね」  少女の微笑みに対して、『彼』は無表情だった。  元々、表情豊かな性格ではない。それでも、かつて少女のそばにいた『彼』は、少女の言動に眩しそうに目を細めたり、照れてうつむいたり、たくさんの感情を少女に見せてくれたのに。  少女はまじまじと、目の前の『彼』を見つめる。  一片の光もない闇の中で、『彼』の姿は少しも損なうことなくよく見えた。まるで、舞台の上で一人スポットライトを浴びているかのようだ。しかし、自身を見下ろした少女には、相変わらず自分の姿は見えない。  もしかして、目の前にいる『彼』は、少女の見ている幻覚なのだろうか。その考えは、少女をここまで導いた感覚が、否定した。これは、間違いなく少女の求めた『彼』だ。  だから、少女はかねてから考えていた通り、『彼』に話しかけた。 「ねえ、帰ろう?」 「……無理だよ」 「なんで?」 「わからない? 僕はもう、呼んでもらった僕じゃないんだ。だから──」 「わかんないよ……!」  少女のささやくような声は、しかし悲痛な響きをもって、『彼』の言葉をかき消した。  少女は両手を差し伸べる。 「別に、帰らなくてもいいよ。でも、離れ離れはイヤ。  呪いも、怨嗟も、つまらない誰かの妄想も、取るに足らない伝統も、全部全部、私が追い払うから」  言い募る少女を、『彼』はただじっと見つめる。 「お願い。どこかに行っちゃうなら、私も連れて行って」 「…………」 「もう、ひとりにしないで……!」  少女と『彼』、二人の視線が真正面から交わる。  口を真一文字に引き結んだ『彼』が、いったい何を思ったのか。それは、少女にもうかがい知ることはできなかった。  重要なのは、『彼』がその細く小さな手を、少女の差し出した手に重ねてくれたことだ。  少女の、年齢と性別相応にたおやか手より、さらにいとけなく薄い手。しかし、その手の平は、意外とかたくしっかりしていて、とても力強いのだということを、少女は知っている。  自分より小さな手に、少女はしっかりと指をからめた。  『彼』は抵抗しなかった。 「あのね、私は歴史の勉強はさっぱりだし、武器のこともぜんぜん興味ない。ツクモガミとか戦争だとか言われても、さっぱりなんだ。  だから、私にとっての『さよ』は、私の友達のさよだけなの」  少女は、絡め取った『彼』の手に、祈るように額を寄せた。 「ねえ、お願い、さよ。小夜左文字を捨てて、『私のさよ』になって」  少女の指と絡み合った、『さよ』と呼ばれた『彼』の手に、ぎゅうと力がこもる。それが、答えだった。 「……馬鹿だな。折れてしまった時からずっと、僕は小夜左文字なんかじゃないのに」  そう。かつて小夜左文字だったものの残滓を、少女が『さよ』と呼んで形を与えて以来、『さよ』はずっと『少女のさよ』だった。  同胞を求めた少女の孤独が、本霊に帰れず、復讐を遂げることもできず、ただ散り散りになって消えるはずだったよどみを、『さよ』として形作った。 「ずっと?」 「そうだよ」 「そっか、ずっとかあ……」  少女は、袖で目元をぬぐった。  小夜左文字。復讐の業を着せられた刀。何百年という時間をかけて積み重ねられた念が、小夜左文字を復讐の子として縛り付ける。  小夜左文字は憑喪神だから、人々の念から成っている。人の信じる姿に構成され、自分の在り様を自分で決めることができない。  さよは、小夜左文字であった自分を簡単に捨てることができなかった。だから、この場所に舞い戻ってしまった。  だけど、それも終わり。さよは、小夜左文字であることを捨てると決めた。何百年とかけて培われた幾千幾万の念を振り払い、たった一人の少女の祈りによってのみその身を成すと、もう決めたのだ。  しかし、小夜左文字を振り払ってなお、さよにまとわりつく、もうひとつの呪いがあった。  それは、この本丸をおおう、祟りの根源。この空間を満たす、闇そのもの。  少女の目には、その呪いが無数の細い糸のように見えた。  荒魂という概念がある。それは、神の一側面。荒ぶる魂という名の通り、呪い祟る神の姿である。神道の人々は、この荒魂を慰め供養することによって和魂に変え、その守護と恩恵を受けてきた。  しかし近年、この荒魂の姿と、堕神を同一視する流れが生まれはじめた。  本来、祟る姿も神の一部なのだ。しかし、荒魂の神性を否定し、祟り神はもはや神ではないのだと否定する者たちがいる。  憑喪神は、人の念が積もって生まれた存在。その根幹は、人によって簡単に左右される。  そう、憑喪神は自ら堕ちたのではない。荒魂を否定する念によって、祟り妖怪へと蹴落とされたのだ。 ──この主殺しめ。 ──神聖な契約に唾棄した、末席とはいえ神の面汚しよ。  無責任な声ががなり立てる。  怨嗟の声が闇を生み、よどみとなって、さよに絡みつく。  さよは、かつて小夜左文字だった。  小夜左文字を顕現した主は、現代の世に詳しいとは言えない憑喪神たちから見ても非情な性格で、長らく刀剣男士たちを苦しめた。  そして、ある日、小夜左文字が折れて。  小夜左文字は失われた。しかし、小夜左文字の復讐の業を負って、さよは舞い戻ってきた。  さよが、この本丸を支配していた審神者を殺したのだ。  そして今、さよを祟り妖怪へ貶めようと、無数の念がさよをこの場所に縛り付けている。  少女は眉を吊り上げて、さよに絡みつく呪いの糸に手をかけた。 「さよに触らないで!」  あっけなく、糸はちぎれた。音ひとつしなかった。 ジェミニ:一縷の祈り【刀剣男士とJKの話】1 u0  日の光が届かない場所で、人間ににじり寄ってくる影。それは魑魅か魍魎か、はたまた狐狗狸(コックリ)の類だろうか。残念ながら、少女にそんな難しいことはわからない。  ただ確信を持っているのは、形ない魂だけの存在になってしまう死後の世界ならいざ知らず、生者はびこる現世においては、生きて肉体を持っていることが一番強いということだ。  それは少女の自論だった。  存在もあやふやな揺らぎに過ぎないモヤや、光を嫌って物陰にひしめく影ども。  少女は、物心ついた時からそれらを見ることができた。  それらは、生きている人間にまとわり付くことはできても、その動きを妨げることはできない。  少女は、経験からそのことをよく知っていた。そして、血肉を持たないというのは、所詮その程度のことなのだと学んだ。  少女は、肉の入れ物を持って確かに存在するものが、この世で一番強いのだと信じていた。 uX  苦しみの根源は去った。永遠に。  もはや、彼らを縛るものはない。たとえば再び人間を信じてまつろうも、それともすべてを忘れて本霊に還るも、はたまた屈辱をはらすために祟りに身を堕とすことすら自由だ。  しかし、誰一人としてそれを喜ぶ者はおらず、新しい道を選択する気にもなれない。屋敷は、重苦しい雰囲気に包まれていた。  ほんの少し前まで(それが数日だったか数週間だったかなんて彼らは数えていなかったが)この屋敷には審神者がいた。  この屋敷は本丸と呼ばれる施設で、審神者によって統括されていた。  刀剣男士である彼らが所属するこの本丸は、世間にその存在を知られ根絶を叫ばれるようになったブラック本丸、というものだった。  被害者である彼ら自身は、ブラック本丸という言葉を知らない。隔絶された地で虐げられてきたからだ。  そして、ブラック本丸の定義とやらは、今ここで語る意味を持たない。グレーとブラックの判定は時に難しい。素人が口を挟んでも炎上するのが関の山だ。いつの世も、自分が正しいという正義感が戦争を引き起こす。  重要なのは、彼らにとっての審神者は、自身の欲望を満たすためならなんだってする人非人だったということ。そして、ここの審神者は、とてつもない嗜虐趣味と征服願望を持つ男だったということだ。  かつて彼らの審神者だった男は、無茶な出陣や刀剣破壊などはしなかった。戦績という数字の上では、きわめて優良な本丸であると認識されることも少なくなかった。  だからこそ、『こと』が起きるまで、政府はこのブラック本丸の実態に気づくことができなかったのだ。  男は嗜虐心の塊だった。  折れないぎりぎりのラインを見定め、傷ついた刀剣男士たちを放置した。そして、時に傷をえぐるように蹴りつけ、うめく姿を楽しんだ。手入れを施すのは、再び傷つけるためだった。  精神的にも刀剣男士たちを虐げるため、彼らの来歴すら事細かに調べ上げた。男は、審神者に抜擢されなければ、おそらく詐欺師にでもなっていたかもしれない。彼は、それくらい言葉巧みに刀剣男士たちを傷つけ、心を叩きのめした。  それが一番効果的だと判断すれば、そんな嗜好など持っていないくせに、同性の姿をした者を組み伏せ蹂躙することすら悦んでやった。その行為は、男の征服欲をほとほとよく満足させた。  契約に縛られた刀剣男士たちに、その災厄から逃れる術はなかった。  ある日、一口の刀剣が折れた。  別に、見せしめというわけではない。日々苛烈を極める虐待を、身を寄せ合うことでなんとか耐え忍ぶ刀剣男士。そんな彼らに仲間を折らせたらどうなるのか。それは、男の思いついた新しい遊びだった。  いや、実は前々から考えていたことだ。しかし、男は機を待っていたのだ。  男は、相手をこれ以上なく苦しめるためなら、なんでもやった。劣悪な環境で慰め合い、相手に仲間の情が移ったその時、自身の手で仲間を折らせる。その瞬間のためだけに、影で互いをかばいあう姿に目こぼしし、刀剣男士を折らないよう細心の注意を払ってきた。  一番初めの刀剣破壊という衝撃を、この上なく効果的に使うために。  男の目論見どおり、刀剣は折れた。  折るのは誰でもよかった。偶然そこにいた、ただそれだけのために、『彼』は折られた。  『彼』は、自分を折った刀剣男士を恨まなかった。いっそ哀れんだ。そして、残される刀剣男士たちが、このことを原因にして仲違いしないでくれれば、と不安に思った。  しかしそれも、折れた瞬間の走馬灯のようなもの。一瞬で思考も掻き消え、『彼』の魂は本霊へと──……  いや。湧き上がる黒いよどみは、決して消えることはなかった。  ああ憎い、この恨みはらさでおくべきか。  残された刀剣たちがこれから味わうであろう地獄を思えば、『彼』は自分だけが楽になるわけにはいかなかった。  しかし、どれほどの憎しみも、怒りも悲しみも、折れた刀剣に刀剣男士をとどまらせるには至らなかった。この世に自身を繋ぎとめるクサビを失ったツクモアヤカシごときの、なんとはかないことだろう。  だから『彼』は、仲間のもとにとどまることも、かといって本霊に還ることもできず。よどみを抱え、流れ、流されて。  そして、『彼』は戻ってきた。  戻ってきた『彼』はひと突きのもと、かつて主であった審神者の男を絶命させた。  それはもはや、『彼』とは言えない『何か』だった。 v1  まだ十代も半ば、現世であれば親の庇護下にあるべきであろう年頃の少女が、凛と背筋を伸ばして座している。  現世では、正座ができない子供が珍しくなくなって久しいという。しかし、血埃で黒ずんだ畳に汚れを恐れず膝を突いた少女の居ずまいは、なんとも堂に入り、臆した様子などかけらも見せない。大したものだ。  そんな少女に相対するように座すのは、両の手で数えられる数を優に超えた刀剣男士たちだ。  殺気立っているわけではなく、その目には理性の光がある。しかし、傷の有無や着衣の汚れにかかわらず、みな一様に疲れきった表情をしていた。  ところで、こんのすけには、刀剣男士の能力をある程度数値化する能力がある。本丸の運営を補助するための機能だ。だから、少女の横に腰を降ろすこんのすけには、刀剣男士たちの疲労が心因的なものであるとわかった。  ひどく損傷している者も少なくないが、それでも半数以上はまともに刀を振れる状態だ。今はまだ、言葉を交わす余地があるようだが、下手なことを口にすればどう転ぶかわからない。  なにせここは、ブラック本丸であった場所だから。  不正を働いていた審神者は、すでにない。しかし、いまだこの本丸は深いよどみの中にある。  政府が浄化を試みてから早半年。結果はご覧のとおりである。  刀剣男士たちとの交渉役として、そしてこの本丸を正常化するための補佐役として、こんのすけは少女に就けられた。少女の身の安全は、こんのすけの最優先任務としてプログラムされている。  そのプログラムが今、こんのすけを困惑させる。  聞けば、かたわらの少女は、つい先日までは現世でただの女生徒をしていたのだという。憑喪神を認識できる程度の能力は備えているようだが、そんな一般人に毛の生えた程度の少女をブラック本丸に送り込んで、何が身の安全だ。  何かお偉方の推薦があったらしいとか、少女自身も志願して来たらしいとかいうことは、こんのすけにも知らされている。しかし、この半年の間に、数多く術者たちがこの本丸を訪れた。往年の大ベテランも、将来を嘱望される期待の若手も、みな同じくこの本丸を救いたいと、全力を尽くした。その誰もが、成し得なかったのだ。それをどうして、今更ただの少女に任せるというのか。  しかし、嘆いて見せても何もはじまらない。仕事をしなければならない。  こんのすけはすっくと立ち上がると、足音もなく少女の前に歩み出て、刀剣男士たちの視線を集めた。 「ご聡明なる刀剣男士様方が既にお気付きのとおり、この娘に敵意はありません。皆様をお救いするため、自ら志願して来たのです。  先日まで学徒であった身。先任の高名な術者様方に遠く及ぶべくもありませんが、どうか、どうか平に……」 「クダよ」  こんのすけの陳情は、しかし途中でさえぎられた。  表面上は穏やかな声だが、そこには有無を言わせない響きがあった。  呼ばれた通り、こんのすけはクダだ。此度の歴史改変戦争において、重要な戦力たる審神者の補佐を行い、政府の伝令役を務めるよう造られた。  こんのすけは審神者の数だけいて、機械的に番号を割り振られ管理されている。かつては北の地にて秘匿された呪術も、文化が極度に均質化された二十三世紀においては、そのほとんどがテンプレート化したプログラムによって構成される便利道具だ。刀剣憑喪神システムを支える歯車のひとつとして、日々使い潰されている。  しかし、どれほど機械的に扱われても、その本質は狐。  こんのすけは、全身の毛並みをぶわわと膨らませると、その尾っぽは後ろ足の間にするりと逃げ込んでしまった。化生の本能というヤツだ。  すっかり固まってしまったこんのすけに、別の声が投げかけられる。 「僕たちは、別に救って欲しいわけじゃない。それはそっちの望みだろう?  もちろん、みんなひどく傷つけられたからね。その償いがしたいというなら、拒む理由はないよ。人間を憎んでいるわけじゃないからね」  存外好意的な反応だ。  しかし、何度も同じセリフを聞いてきたこんのすけはうなだれた。 「だが、俺たちが望むのは手入れとかじゃねえ」 「そうです。ぼくたちはもう、すくわれているのですから」 「私たちの要求は、はじめからずっと、ただひとつ」  代わる代わる話す刀剣男士たちを前に、こんのすけは、ちらと背後の少女を見やる。  少女ははじめと同じ体勢で、目をそらさずしかと刀剣男士たちの話に耳を傾けていた。  彼女は何を思っているのだろう。  思ったより刀剣男士たちが理性的な様子で、胸の内では安堵しているだろうか。はたまた、彼らの望みをなんとか叶えてやろうと、熱い闘志でも燃やしているのだろうか。  だが、そんなものはすべて無意味なのだ。 「俺たちを救ってくれた『彼』を、なんとか救ってやりたい」 「しかし……私たちには、何も……できませんでした……」 「もう、僕たちの声は届かないところにいるんです」  刀剣男士たちの訴える声が、悲痛な色を帯びる。  彼らも、自分たちがいかな無茶振りをしているかは、痛いほどわかっているのだ。それでも、譲れない望みがある。 「どうか、頼む」  贖罪を受け入れる身でありながら、彼らはこうべすら垂れて見せた。  みな、ただひとつの願いを抱えていた。 「アレを殺してくれた『彼』を、救ってくれ」  今この本丸は、荒ぶるひとつの御霊に呑み込まれている。  昼と夜の違いすらわからない、薄暗い空。息をするのも戸惑われる、淀んだ空気。油断すると咳き込んでしまいそうなすえた臭いは、庭の池から湧き立ってくる。  祟り神。それが、まさしくこの本丸に根を張っていた。  ブラック本丸で主殺しを行い、祟りと化した刀剣男士は、実は今回が初めてではない。悲しいことだが、今までいくらかの本丸でそのようなことが起き、しかしそのすべてが本職によって鎮められ、荒御霊の状態を脱している。  古来、神とは両義性を持つもの。人々は神の恩恵を受ける一方で、その怒りに触れぬよう自身を戒めてきた。同時に、強大な力を持つ祟り神を手厚く祀りあげることで、その魂をなだめ、逆に守護の力として味方につけてきたのだ。  つまり、無茶を通そうとしたわけではない。勝手知ったるはずの専門家たちが、しかしこの本丸では軒並み鎮魂に失敗した。そういうことだった。  誰もが、成し得なかった。  それを、ただの少女に、いったい何ができるというのか。  こんのすけは少女を振り返る。  状況を理解しているのか、いないのか。少女は、相変わらず凛と背筋を伸ばし、そこに座していた。  不意に、少女の首がかしいだ。その眉間に、皺が寄るほどではないものの、軽く力がこめられるのを、こんのすけは見た。  訝しげ。困惑。そういった軽度の動揺が、少女の体調をあらわすバイタリティ値の変動から観測された。 「あの、たぶん勘違いされてます」  歳の割には、しっかりとした声色だった。しかしそれも、先ほどまでの堂々とした居ずまいを思い出せば、納得がいくものだ。 「勘違い?」  逆に、刀剣男士たちの方から訝しげな声が上がる。  ざわざわと動揺が室内に広がっていくのが、数値を解析しなくてもはっきりわかった。 「私は政府の配下じゃないです。だから、政府があなたたちに何と言ってたとしても、私があなたたちに償いだとかするつもりはないです。  私に望みを告げられても困ります」 「へ!?」  こんのすけはびっくりした。それはもう、その場で数センチ飛び上がった上に、着地に失敗してたたらを踏み、鼻先をたたみに打ち据えるくらいびっくりした。 「どどど、どういうことです審神者様!?」 「だから、私は政府の人間じゃない。だから審神者でもない」 「えっ! だって、いやしかし……!?」  こんのすけはかわいそうなくらい挙動不審になって、おろおろと右往左往しはじめた。そして、足を絡ませて、もう一度倒れた。 「あなたたちに会いに来たのは、知らない人間が来て、あいさつもせずに歩き回ってたら嫌だろうなと思ったから、です。  政府の許可は、もう得てます。私、あなたたちの誰も、決して傷つけません。だから、少しだけ私がこの本丸内をうろつくことを許してください」  おねがいします、と少女の良く通る声が響く。  あまりにも真摯な響きに、刀剣男士の何人かは思わず頷きかけた。  それを、周囲の仲間たちがあわてて止めに入る。 「ちょっと。待って待って」 「それだけの話で、はいどうぞと言うわけにはいかないぞ」 「おんし、一体何が目的でここに来た」  ピリリと、緊張を含んだ問いが四方から投げかけられる。  ひょっとしたら、殺気すら含んでいたかもしれないそれを、しかし少女は平気で受け流した。顔色一つ変えず、少女は毅然とした態度で口を開く。 「私は、私の友達を助けに来たんです」  自分は難しいことはわからない女子高生で、見ず知らずの人のために汗水垂らすような偉い人にはなれない。今だって自分のことで手一杯で、だから、あなたたちの助けにはなれない。  そう、少女は述べた。  刀剣男士たちはあっけに取られる。  もとより、今までこの本丸を訪れたどの高名な能力者にも成せなかったことだ。今更、ただ人にしか見えない少女に強要することではない。  少女の背筋は変わらず凛としていたが、その四肢はおそらく歳相応に頼りない細さだった。祟りに近寄るどころか、自分の身を守ることすらおぼつかないように見えるのだ。  しかし、そうであるなら、刀剣男士たちには問わねばならぬことがあった。 「君のお友達とやらを救うのに、どうしてこんな場所まで来る必要が?」  少女にうろたえた様子はなかった。ただ、わずかに顔を強張らせ、刀剣男士たちはそれを察した。  少女は目を伏せる。  深い、静かな深呼吸がひとつ、シンと静まり返った部屋に響く。  刀剣男士たちは、息を吸うことも忘れ、少女の一挙一動に注目した。 「私の友達は、呪われてるんです」  ギシリ。家鳴りが、不自然なほど大きく、部屋に響いた気がした。 「呪いとは……それはまた、いったい何に?」 「名前はわかりません。でも、逆らいがたい、とても大きな力です」  今まで、ただ真摯に、しかしどこか淡々と話していた少女の声色に、はじめてチリと火花を散らすような感情がのぞいた。 「その呪いの核が、ここにあるんです。  だから、ここまで来ました」  ざわり。  刀剣男士たちは、すばやく視線を交し合った。決して口にはせず、しかし気配が言葉より雄弁に意志を確認し合う。  少女は、神霊の類に嫌われるような要素は、特別持ち合わせていない。むしろ、堂々とした居ずまいや真摯な態度、友のためという言葉に、刀剣男士たちは好感すら覚えていた。  しかし、呪いという言葉を聞き過ごすわけには行かない。少女は、この本丸に自身の友人を呪う核があるのだと言った。  あの男が、審神者の能力を見出されるまでは、呪術などとはまったく無関係の一般人(その性癖がどうであれ)であったことは、事後説明を受けたこの本丸の刀剣男士たち全員の知るところだ。となれば、呪いの性質を帯びるものなど、この本丸ではひとつしか思いつかない。 「君は、術者でもなんでもない、ただの女の子なんだろう?  その呪いの核? そんなものがここにあったとして、どうするの?」  努めて平静を装った声は、うまくいっただろうか。そんなことには、もはや気が回らなかった。  刀剣男士たちはみな、めいめいが腰をわずかに浮かし、ある者は鍔裏に指を押し当ててひそかに内切りの準備をし、またある者は、柄にかける控えの手を隠そうともしなかった。  ヒィと、か細い悲鳴があがった。  今まで固唾を呑んで少女を見守っていたこんのすけが、お待ちくださいと飛び跳ねる。 「お待ちください、どうかお待ちくださいませー!」 「クダ、お前には聞いてないから黙れよ」 「ねえ、呪いを見つけて、それでどうするの?」  もはやこんのすけなど眼中にはなく、すべての刀剣男士のまなざしが、少女にそそがれていた。  一触即発の気配が、部屋に満ちていた。 「お願いします」  しかし、特に緊張した風でもない少女の返答に、張り詰めた空気が霧散する。 「私の友達を呪いから開放してくれるように、伝えます。私、お願いしに来たんです」 「お願いって……」  呆然と誰かが呟く。あきれ果てるとはよくぞ言ったものだ。あきれることすらできないできごとが、世の中には存在するものなのだ。  この少女は、呪いというものに言葉が通じると思っているのか。まじないが表の世界から姿を消して久しいとはいえ、あまりにもあんまりな考えではなかろうか。  刀剣男士たちは、ただ困惑する。少女のことが理解できなかった。そして、この本丸への訪問を許可した政府の思惑も。 「絶対、会いに行くって約束したんです」  それは、少女と友達との約束だろうか。  少女が上半身を前に傾け、頭を下げる。 「話を聞いてくれて、ありがとうございました」  何も、礼を言われるようなことはしていないはずだ。しかし、少女は心底感謝しているのだといわんばかりに、今までキリリと引き締めていた表情をやにわに崩した。泣きそうな表情だと、誰もが思った。  少女は立ち上がる。 「みなさんは、本当に、本当にやさしい神様たちですね。  私の友達も、すごくやさしい子なんです」  少女はうつむく。 「……ひどいお願いかもしれません。でも、できたら、私たちは友達だったんだってこと、誰かに覚えていてほしい」  それじゃ、さようなら。  くるり、少女の身がひるがえった。  あ、と刀剣男士たちが口を挟む間もなく、少女は入ってきた襖の間をすり抜けて、部屋を出て行ってしまった。 「い、いずこへ!  ああ、お待ちください! そちらへはなりません!!」  後を追うこんのすけの悲鳴に、全員が我に返った。 「待ちなさい!!」  鋭い声を上げて一番に駆け出したのは、驚くべきことに江雪左文字だった。  いや、この本丸の刀剣男士たちにとっては、得心の行く状況だったかもしれない。  ともかく、いつものゆったりとした口調など忘れたように、荒々しい足音を立てて、江雪左文字は部屋を飛び出した。それに一期一振が、そして宗三左文字が続く。 「いち兄!!」  一期一振と同派の刀剣男士たちから、悲鳴のような声があがる。身軽なものから次々に駆け出そうとし──しかし、それを圧しとどめる声がすぐに発せられた。 「待ちなさい!」 「だって!」 「落ち着くんだ、ただの女の子だったろう?  ……あそこに近づけやしないよ。すぐ、三人が連れ戻して来てくれる」 「でも……」  ある者は泣きそうな声をあげ、またある者は無力感に痛いほど手を握り締めた。  粟田口の刀剣をとどめた声の主、石切丸は、彼らのそばに膝をついた。うつむく者の頭をなで、唇をかみ締めるものの頬に振れて呼吸をさせ、握り締めた手を包んでそっとほどいた。 「私たちの誰も、近寄れなかった。今まで来たどんな術者も、その様をちらと見ただけで逃げ帰った。  それは、私たちには悔しいことだけどね。でも、だからこそ、今は大丈夫だよ」  穏やかな声で語りかける石切丸は、しかし、胸の内に湧き上がる暗雲を散らすことができなかった。  だからといって、何ができるというのだろう。  仕方ないのだと、石切丸は自身も部屋に残る選択をした。そして、慰めるべき頭数が足りないことに気づく。 「……五虎退はどこだい?」  全員がはっと周囲を見渡した。  そうなるからには、どこにも見当たらないのだ。仔虎の一匹たりとも。この本丸で一二を争うほど、今回の件で心を磨耗させた、短剣の姿が。  ぞっと、全身が総毛立つのを感じた。 「薬研!!」 「おい、薬研!」  乱と厚の声に、石切丸は我に帰る。  短刀たちが、脇差の二口が、次々に部屋から飛び出していく。もはや、制止の声も間に合わない。  他の者たちも、各々親しい間柄同士で顔を見合わせると、どんどん部屋を出て行く。 「ああ、もう……!」  石切丸は頭をかきむしった。  何か、この本丸でとてつもないことが起ころうとしている。  占うまでもなく、神託を受けたわけでもない。しかし、それは確かな予感だった。 「私は祈祷する側で、予言を下す力なんてないんだけど、な!」  そして、石切丸もまた、部屋を飛び出したのだ。 Fragments(刀剣ネタ断片集) Frag:噂をすれば影が差す frag:1  審神者と刀剣男士たちの拠点たる本丸は、時空間隙に設けられたサーバーと呼ばれる特異空間に存在している。  そこは世界の未来を守る戦場の最前線。故に、霊的技術の最先端を駆使して隠蔽が施され、厚い守護に覆われている。  だから、その本丸のひとつからの定期連絡が途絶えたという報告は、サーバー管理に携わる術者の多くを震撼させた。 「本丸を構成する術は、審神者の死亡報告をした後すみやかに本丸空間を閉鎖消滅させるようになっている。  現在、本丸と通信網および通常の転送陣の発動が封鎖されているようだが、緊急開放経路は正常に動作していることが確認されている。本丸空間の消滅術式の発動兆候は見られない。よって、目標本丸の審神者は生存していると見られる。  しかしこれはあくまで予想。目標の現状は一切不明。我々の最大目標は、該当本丸の現状を確認しその情報を持ち帰ることだと忘れないで欲しい」  年頃の娘らしい手入れも知らぬ、荒れた指先が紙面をめくる。 「確認すべき情報の優先事項は、第一に審神者の安否。安全確保までできれば申し分ない。第二に、本丸の機能異常の原因究明。可能であれば回復作業を行う。  まあ、こんなところかな」  別行動をする予定はないが、目標の共有は重要だ。  娘は並ぶ顔ぶれを見渡して、特に質問があがらないことを確認する。 「それじゃあ、行こうか」 frag:2  あいもかわらず荒れた指先が端末のディスプレイをなぞる。  その様を、宗三左文字は呆れ顔で眺めた。  最も、彼はいつも目をすがめた気だるげな表情をしていて、主たる娘はそんな彼の平常時の顔と今の呆れ顔との区別が付かなかったため、その様子を大して気にも留めなかったが。  貴族の令嬢のように身を美しく保つことに何時間も掛けろとは言わないが、せめて冬場に指先が割れる目に遭わない程度に手入れはして欲しい。この娘に対してそう思っている彼女の刀剣男士は多い。  しかし、いかんせん本人の気質が身づくろいに向いていないため、暇のある時に小言とともにハンドクリームという現世の手入れ薬をすり込んでやるのが精一杯だ。  宗三は、まるで聞く耳を持たぬ娘にくじけることなく念仏のごとく説教を説き続ける彼女の初鍛刀男士の姿を思い、ため息を呑み込んだ。 「おかしいな、特に異常があるようには見えないんだけど……」  ある一定以上の角度からの光を完全に反射するよう加工されたディスプレイは、操作主以外にその内容に漏らさない。そのため宗三は、主が見ている画面を覗き込むことはできない。しかし、彼女が何をしているのかは大体察することができた。  娘は、この本丸を構成する術式に何か不備がないか確認しているようだった。  娘の指がせわしなくディスプレイの上を行き来する中、その斜め後ろに控えた宗三は周囲を見渡した。  鮮やかな群青の空が広がっていた。沸き立つ入道雲の白とのコントラストがまぶしい。さえぎるもののない日差しは、暴力的といって差し支えない熱を大地に与えている。  それらは夏の庭と呼ばれる景趣の物だとすぐに知れた。  さわやかなはずの夏の景色は、しかし今はただ、不気味さをもってそこにあった。  まず第一に、音がしない。  日本の夏といえば、蝉の鳴く音を記憶に持たぬ人間はいないだろう。それが、この本丸ではシンと静まり返り、鳥のさえずりすら聞こえない。  第二に、空間が凪いでいる。  風に代表されるような気の流れが、この本丸では完全に静止していた。淀んでいると言っても差し支えない。勝手に失礼させてもらった軒下で、むなしく垂れ下がって微動だにしない風鈴は、この空間の異常さを明確に突きつけてくる。  連絡が途絶えたという本丸は、審神者どころか刀剣男士の気配ひとつ感じられない、無音の地と化していた。 「連絡をする人物が消えたから連絡が途絶えた。そういうことじゃないんですか?」 「それだとサーバー管理側からの転送経路が封鎖されてしまってる理由がわからない」  首を傾げる宗三に、彼の主は唇を指先でなでて思案しながら返答する。  今わかるのは、もう少し詳しく本丸を調べなければならないということだ。 「ひとまず、まだ見てない区画の調査だね」 frag:3 -------------------- 個人情報  シメイ:■■■■ ■■■  氏名:■■■ ■■  生年月日:2■■■年■■月■■日(満■■歳)  性別:男  住所:(情報削除済み)  戸籍番号:(情報削除済み) 審神者情報  号:鳴沢(ナルサワ)  ・満■■歳時に、第二審神者制度の発足により徴集。  ・江戸時代に出陣中。  戦績:(情報削除済み) --------------------  自身のセキュリティクリアランスレベルで閲覧可能な情報量の少なさに、娘は痛むこめかみを揉みほぐした。  公的な会議の承認を受けたわけでもない、周囲から一目置かれているというだけの術者に個人的に雇われた身であることを考えれば、一般に公開されていない情報へのアクセス権があるだけでも御の字と思うべきなのか。なんにせよ、戦績を閲覧できないのは辛い。刀帳や刀剣収集の項目を見ることができないため、この本丸の刀剣男士の現存情報を得ることができない。  娘は、鳴沢の号を持つ審神者の肖像写真を呼び出し、目の前の男と見比べた。  写真の中の男は、清潔感のあるワイシャツをまとい、床屋で整えたばかりであろう髪で、証明写真らしい真面目な表情で正面を見つめている。一方で娘の目の前にいる男は、バリカンで整えているのか短く刈り込まれた頭と、夏の景趣に合う涼しげな甚平を着て、目の落ち窪んだ疲れた表情を晒している。髪の長さや衣服の差異はあれど、同じ人物であると娘は判断した。 「状況確認のため、失礼ながらもう一度号をお願いします」 「えっと……鳴沢、です」 「あなたは本丸 euj062-564456 を維持管理を担当する審神者本人に間違いありませんか?」 「あ、はい……」  娘は会話内容を録音しながら、メモにも内容を書き留める。  鳴沢と名乗った審神者の男は、戸惑うような表情で娘を、そしてその後ろに控える宗三左文字を見比べた。 「あなたも審神者、ですか?」 「刀剣男士を顕現し歴史修正主義者と戦っているのか、という意味なら、その通りです。  私の号は白棘草(シロイラクサ)。現在は有力な巫術師の一人から個人的な依頼を受け、定期連絡が途絶えた本丸 euj062-564456 の調査に来ました。こっちは近侍の宗三左文字」  鳴沢の視線が宗三に向く。宗三はあごを引く程度の軽い会釈を返した。 「あなたの安全確保は任務の中でも最重要事項に位置します。  しかし、本丸 euj062-564456 の機能回復も重要な任務のひとつです。ご協力願いたい」 「それは、もちろんかまいませんが……」  なぜ定期連絡を行わなかったのか。  刀剣男士たちの姿が見えないようだが、どこにいるのか。  サーバー管理側からの転移陣展開が阻害されているが、心当たりはあるか。  聞きたいことは山ほどある。  しかし、一度に聞いても、やや心神喪失状態に近い傾向を見せる鳴沢を混乱させるだけだろう。  白棘草の号を名乗った娘は、慎重に質問内容を選び始めた。