「君は自信たっぷりだね?」と総長は冷ややかにいった。
「ありますとも、たしかにあるつもりです」
「それで君は、この二人の死刑を望んでいる人々を非難する権利と目的が与えられた、とでもいうわけだね?」
「それを望んでいる人たちはいますが、それは、身分の高い少数の人たちなのです。こういうことは、世界中の人が知っています。私はそれを話しました。が、話したことを後悔してはいません」
「僕のこともいっているのかね?」
「ええっ?」
「君は僕を責めているのかね?」
「いいえ、あなたのことなんか申してはおりません」と教授はいった。「あなたは自責の念にかられていらっしゃるんですよ。あなたは感情を害されただけですが、この二人は今夜死ぬのです。いったいあなたは何回死んだことがおありですか?」
(ハワード・ファスト『死刑台のメロディ ―サッコとヴァンゼッティの受難―』藤川健夫訳、角川書店、昭和四十七年四月十五日初版発行、68-69頁より)