「屈辱だ…、これ以上ない屈辱なのだよ…」「あ? 人の世話になっといて何言ってんだ」「…何やってるんスか?」ぶつぶつと小声でひたすら何かを呟いている緑間と、その緑間の前を面倒くさそうに歩いている青峰。二人は同じクラスであるし、一緒にいても何ら不自然ではないのだがそれでもその様子を目撃した黄瀬が首を傾げて問いかけたのは、二人が手を繋いで歩いていたからに他ならなかった。「マスクに眼鏡では、眼鏡が曇るのだ、よ…」不自然に途切れた言葉はかろうじて最後まで紡がれたが語尾はほとんど咳に交じってしまっていた。苦しそうに呼吸をするマスクで鼻まで隠れている緑間の顔には、確かにいつも掛けている眼鏡が乗っていない。珍しいと思いながらぶしつけに黄瀬が緑間を見つめていると、青峰が仕方なさそうに補足した。「こいつ眼鏡掛けなきゃ全然なんも見えねぇんだって。ったくしょーもねーよな」「別に、おまえの力など借りなくても俺は大丈夫なのだよ」「でもさっき壁にぶつかってたよね~」緑間の後ろから間延びした声がして、見れば紫原が音楽の教科書とリコーダーを手に立っている。「なんでおまえがそれを知っているのだよ!」「だって見たもん。あ、そう黄瀬チン、次音楽だから移動しないとだよ」「あっ、忘れてたっス。じゃあ緑間っち、お大事にッス。青峰っち、今日の部活では負けないっスからね!」
「へーへー。んじゃあこのまま保健室行くか」「なっ、そんなことをしたら部活に出られないのだよ」「つーか今のままだったらどうせ赤司に止められて部活になんか出れねぇだろ」赤司が明らかに体調の優れない者を練習に参加させるとは思えない。「そ、れは…」「まぁ別に俺はどうでもいいんだけどよ」足元気をつけろよと投げやりに言ってやる。緑間の顔が下を向いた。どうせ碌に見えていないのだろうが、それでも段差があることくらいは分かるだろう。会話は途切れて、時折緑間の咳が響いた。保健室に連れていくと言ったくせに、青峰は自分の教室に向かっている。
・一応形にしたものだけど、メモが残っていたのでこっちに移してテキストデータは削除削除。