台本④~マルサイ~
台本作成:森山わん太郎(@MoriyamaWantaro)
男 「な、なんだ? テメェ! 人の商売の邪魔しようっての――ぶげぇっ!!!?」
マルサイ「黙れ人間。次に話しかけたら殺すぞ。蹴りだけで済ませているんだ。感謝しろ」
男 「ぐ、う、おぉ……! おで、おでのはなが……っ! はだが曲がって血が、血があぁ……ふぐぅっ」
マルサイ「うるさい黙れ。動けば殺す、逃げようとしても殺す、抵抗しようとしても殺す、騒いでも殺す、俺の指示以外の事をすればすぐさま殺す。今すぐ殺されたくなければ、大人しく殺されるのを待っていろ」
男 「ぐ、う、おぉ……っ」
マルサイ「……まぁいいだろう。それで……そこの異界人。大事はないか?」
異界人「は、はい……あの、助けて頂き有難うございました……」
マルサイ「礼には及ばん。ついで……と言ってしまえばついでなのだからな。――おい、人間」
男 「ぶ、ぶごっ……な、なんでじょう……」
マルサイ「貴様、この辺りで異界人が売買されている場所を知っているな? 吐け」
異界人「売買先……?」
マルサイ「あぁ。この人間共は、私たちの同志を攫っては、ある時は悪趣味な金持ちの下へ、ある時は見世物小屋へ、またある時は、軍部や狂った科学者どもに売り払い多くの金を得ているらしい。そこで、だ。その売買の大本になるマーケットさえ潰してしまえば、暫くは我らが同志があの悪辣な魔の手にかからぬように出来るはずなのだ」
マルサイ「私はその糞野郎を追っていたのだが……偶然にもお前がそこにいた。幸運だったな――というわけだ、人間。吐け。そうすれば、大人しく殺してやろう」
男 「そ、そんなマーケットなんて俺ぁしらねぇ! 本当だ。今日その異界人のガキを連れて行こうとしたのだって、ちょっと頼まれたからで――」
マルサイ「ならばその相手を言え。貴様の知っている事を全て吐け。他の人間の姿を、場所を思い浮かべろ……今思い浮かんだものは全て壊して殺す」
男 「ほ、本当に知らないんだ! これ以上の情報はない! だが聞いてくれ私は、お前の質問に答えた!だから今度は俺の」
マルサイ「そうか人間。知っている事は話したか。ならば死ね。準備は出来たか?」
男 「ぐ……う、うぅぅ……ぅぅぅぅぅぅぅうううううううう……!!!うるせぇ! た、たかが化け物のガキ一匹、オモチャにしたってだけで殺されてたまるか! どうせ戦争中だって、お前ら異界人は森に隠れてのうのうと過ごしてたにちげぇねぇんだ。良いか? 俺の息子は敵の戦艦に特攻して死んだ。妻は焼夷弾に焼かれて塵になった。そんな代償払ってまで代わりに戦ってやってた人間様に貢献してくれたって、バチは当たらねぇだろうが!」
マルサイ「……は」
男 「あん?」
マルサイ「ははは……はは……ハハハハハハハハハハ!!!!!」
男 「な、なんだ? 何笑ってやがるんだ!? お前気でも狂――」
マルサイ「黙れ」
男 「うぐぉべ……!?」
異界人「ひ……っ!!! く、首、首、が、と、飛んで……!!!?」
マルサイ「だからどうした? だからどうした!!!? あれは人間どもの争いだ!!! 人間どもが死ぬのは当然だろう、人間どもが死ぬのは道理だろう!!! 代わりに戦ってやった? ふざけるな!!!! ならば俺達は何だ? 俺達はどうしてあそこにいた!? あの光景を忘れるものか、あの仕打ちを忘れるものか。くそ、クソ、糞!!!!」
異界人「な、なん、な、に……」
マルサイ「……お前、飛び散る手足を観た事はあるか?」
異界人「……え?」
マルサイ「仲間の躯を抱えたまま悲しみに暮れた事は? 談笑していた友人が突然目の前で爆ぜた事は? ロクな物資も回されぬまま、休みなく戦地を駆け抜けた事は? 仲間が弾けても爆ぜても飛んでも消えても燃えてもそれでも走らされ続け、ふと気が付けばたった一人で立っていた経験はあるか?」
異界人「……」
マルサイ「私は……幾度となく経験した。あそこに俺達の生きる権利などなかった。ただの、使い捨ての道具でしかなかった。人間に促されるまま、人間の為だけに動かされてきた。しかし、今は違う。人間どものあの馬鹿げた戦争は終わった。あの自然を、森を代償に、我々の命を代償に、終わったのだ。そして今、我々がするべきことはなんだと思う……?」
異界人「するべき……こと……?」
マルサイ「我々が我々として生きる事だ」
異界人「いきる……僕たちとして……」
マルサイ「そうだ。今までの様に人間に怯えて暮らすのでもない。人間に媚びを売りながら過ごすのでもない。我々が我々らしく、胸を張って生きていられる、そんな世界を作る事こそが、今、私達のするべきことだ……お前も来い。奴らに何をされたか思い出してみろ。傲慢な人間どもに罰を与える時だ。さぁ、私と共に来ると良い、同志。そしてたどり着くがいい。世界に人間は不要である、と……」
-結-