台本③~英理~
台本作成:森山わん太郎(@MoriyamaWantaro)
老婆 「先生のおかげさまで、痛んどった足もすっかり良うなりましたわ。ほんに、ありがとうごぜぇます」
おさむ 「それは良かったです。では、また何か……ほんの些細な不調でも出ましたら、直ぐに仰ってくださいね――では次の方」
女の子「えりちゃん先生! こんにちはー!」
中年女「こら! あんたって子は先生に対して何よその言葉使いは!!!」
おさむ「まあまあ、そう怒らないであげてください。この子も悪気はないのでしょうから――ですが、私もれっきとした男ですから、『エリちゃん』はよしてください。ね?」
女の子「はーい!」
おさむ「ふふ、結構です。――それで、今日はどうされました? 見た所、どこも悪いところは無さそうですが……」
中年女「実はこの子、最近よく森のあった方に遊びに行くようになったんです。そこで、『いつもお友達とあそんでる』なんていうんですよ」
おさむ「おや、それは結構な事じゃあありませんか。戦争も終わって、子供が自由に遊べるようになったのは良い事です」
中年女「えぇ……私も、最初の内は微笑ましく思っていたんですの。けれど、この辺りの子じゃあないみたいで……それで気になって、そのお友達の事を聞いてみたんです。そうしたら……」
女の子「あのねー! お羽根がぶわーってなって、すっごく綺麗なの! それでね、私の事抱っこして、一緒にお空びゅーってしてくれるの!」
中年女「止めなさい!!! ねぇ聞きまして!? 子供を抱えて空も飛べるなんて、人間じゃありませんわ! ばけもの――きっと、町長さんのいう所の奇妄です! あぁ、なんて恐ろしい……噂だと、あれは寄ればうつる類の病だというではありませんか! そんなものに近付いて、もしこの子になにかあったら――」
おさむ「……お言葉ですが、彼らは化け物でも病の元でもありませんよ。どこでそんな出鱈目を聞いたか知りませんが…しかも、それを子供に言うなど……! 貴女何を考えているんですか!!」
中年女「で、でも」
おさむ「でもじゃありません!!! 大体、そのような根も葉もない噂が――」
女の子「先生! ママをいじめないで!!!」
おさむ「……! ……コホン。兎に角、この子は健康ですし、なんの心配も必要ありません。ですから、今日の所はお引き取りを――」
中年女「は…はぁ…」
おさむ「――あぁ、そうだ。君」(小声)
女の子「え…な、なぁに?」(元気は出さないで)
おさむ「もしまたそのお友達にあったら、こう伝えてあげてくれませんか?もし何かあれば、私を訪ねて来るように、と」(小声)
少女 「う、うん、わかった……」
おさむ「お願いしますね。それでは、お大事に」
看護婦「――先生、子供の前で怒鳴ったりしたら駄目じゃないですか。普段温厚な人が怒ると怖いんですから」
おさむ「……すみません、つい冷静さを欠いてしまいました」
看護婦「まぁ、いつもの事ですし別にいいんですけれどね。……っと、そうだ、そんな事を言いに来たんじゃないんですよ。裏口。いつもの異界人の患者さんです。お通ししても?」
おさむ「いつもの……あぁ、彼ですか。えぇ、直ぐにお通ししてください。……まったく、いつも堂々と表から来なさいと言っているのに……」
異界人「あ、あの……すみません」
おさむ「こんにちは――って、どうしたんですか! その頭!? 血まみれじゃないですか! 早くこちらに座ってください、直ぐに手当てを!」
異界人「い、いえ! そんな! 私が座ってしまうと羽根が――」
おさむ「だからなんです!? 座って頂かないと治療も出来ません!」
異界人「うっ……そ、それじゃあ失礼します……」
おさむ「結構な量の出血ですね……一体どうして」
異界人「それが……どこかから落ちてきた石に当たって……その」
おさむ「顔は覚えていますか」
異界人「え?」
おさむ「石を投げつけられたんですね? これだけ深い傷ですと……相当な勢いでしょう。直ぐに犯人を捕まえなければ。それで、どこの誰にやられたんです?」
異界人「い、いやそんな! 怪我さえ治れば満足ですから! それに、変に騒いでこれ以上町の人との関係が悪くなったら……本当に、お願いですから事を荒立てないでください……」
おさむ「ですが……!」
看護婦「先生っ」
おさむ「……失敬。ですが負う必要も無い怪我をする事もありません。ですからもしまた石を投げられたりした時には、私に遠慮なく言って下さい。いいですね?」
異界人「は、はい……多分」
おさむ「多分?」
異界人「はい!」
おさむ「よろしい。――はい。治療、終わりましたよ。暫くは安静に。もし何かあれば、また来てくださいね。私はいつでもここにいますから」
-結-