1979年のシャトーマルゴーをグラスに2杯。理性を失うには足りない量のアルコールを摂取し、男はレオナルドを手招きした。
中身の残ったグラスをテーブルに置き、ソファから立ち上がる。唇に薄い笑みを浮かべた男の傍に立つと、長い指が腰にかかる。次の瞬間、バランスを崩したレオナルドは男の腕の中に倒れ込んでいた。
「そう、いい子だ」
耳元で低く囁かれて、身体が震えた。この男の声はまるで毒薬だ。感覚と理性を麻痺させ、快楽と死へ導く甘美な毒薬。そんな男の虜になりつつある自分自身に気付き、レオナルドは苦笑した。
「何か面白いことでも?」
「いいえ、なんでもありません」
乾いた唇が鎖骨をなぞる。指先が背骨を辿って下りてくる。僅かな接触がもどかしく、思わず熱い息を吐いた。
ずるい男だ。いつも思考がぐずぐずに溶けてしまうくらい愛撫をするくせに、こちらが触れることは許してくれないのだ。いつも自分ばかりがあられもない姿を晒す羽目になる。
「レオナルド」
不意に男が動きを止める。切れ長の瞳が切なげにレオナルドを見ていた。
「……いいですよ」
そう答えた瞬間、天地がぐるりと回った。レオナルドはいつの間にかソファに横たわっていた。
レオナルドは自分に熱い視線を注ぐ男の顔を見返した。
そうだ、この視線だ。この自分を欲して静かに燃える瞳が、レオナルドに身悶えするほどの優越感をもたらすのだ。
レオナルドは白い腕を伸ばし、男の髪を撫でた。