僕の先輩、ザップ・レンフロは本当にどうしようもない人だ。
深夜に電話を鳴らしてひとの安眠を妨害したかと思えば、突然やって来て「女に追い出されたから一晩泊めてくれ」だなんて、非常識もいいところだ。もっとも、あの無法者が服を歩いているようなザップさんに一瞬でも常識なんてものを期待してしまった僕も、考えなしという点においてはあの人とそう変わらないのかもしれない。
ともかく、その後ザップさんは強引に上がり込むと、目にも留まらぬ早さで僕のベッドを占拠した。近づいてみると強烈なアルコール臭がしたから、相当飲んでいたのだろう。気付いた頃には起こすのが忍びないくらい気持ちよさそうに熟睡していた。
さっきうちに来た時は悲壮感たっぷりの顔をしていたくせに、本当になんなんだこの人は。大体、どうして僕の家なんだ。女の人の所へ行けばいいじゃないか。ザップさんは人間としてはどうしようもないポンコツだが、顔が無闇にいいおかげで女性に困っているのを見たことがない。むしろ多すぎて頻繁に修羅場になっているくらいだ。
「うーん……待ってくれよ、フランチェスカ……」
ほら見たことか。呆れたことに夢の中でまで女性と仲良くしているらしい。むかついたので間抜け面に枕を叩きつけてやった。
翌日、ザップさんは昼頃に目を覚ますなりデートの約束があるとかなんとか言って出て行った。残ったのはお酒臭いベッドとすっかり空になった冷蔵庫だった。本当に、どこまでも迷惑な人だ。
大体、あの人ときたら調子がいいにもほどがある。去り際に相手の目をじっと見て「悪い」と謝れば全部チャラになると思っている。確かに、それで許したくなるような妙な愛嬌があの人にはある。本人も分かってやっているのだろう。けれど、僕は騙されない。ほだされたりなんかするものか。
明日事務所で会ったら文句を言ってやる。マットレスからシーツを剥がしつつ、そう固く心に誓った。