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古びた町営アパートの階段の踊り場で
抱き寄せ、暗闇に目が慣れないままにキスをした。
慌てたキス、歯が少し彼女の歯に当たり
ごめん。と呟き
伏せた彼女の顔を覗きこんだ。
月光が背後から差し込む。冬の12月の光は
冷え冷えとした青白く彼女の髪を照らした。
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冷えきったコンクリートが僕達の体温を奪う。
剥がれ落ちたペンキの跡のザラザラとした触感が
白いシャツを通して伝わる。
数段登ると開放口から月光が差し込む。
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学校から数分歩けば、ひなびた駅舎がある。
毎日、一時間に一本程度の電車が止まりゆっくり動き去る。
僕たちは手をつなぎ、駅に走りだし
歩道橋を駆け上り
電車に飛び乗った。
地方の海岸線を電車はゆっくりと速度を上げていく。
海岸線から真冬の海が照らされて
キラキラと車内を照らす。
海に一番近い小さな集落の駅で降りて
僕らは海へ歩いて行く。
誰も人通りのない民家の細い道を抜け、国道を渡り、防波堤の開かれた階段を降りていく。
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ストップモーション
落ちていく。
飛んで行く。
ゆるやかに時間を流れ
その中で音楽と言葉が流れていく。
青い空。
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取り壊し前の古い校舎は
コンクリートの冷たさと冬の雲間から時折
廊下を照らすぼやけたセピア色の光の中できらめく埃
去年卒業した生徒の書道の紙がちぎれて
風に回っている。
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手首に薄っすらと血の筋が残るほどつよく
ナイフを押し付ける
この世から消したいのは、私の回りの者達
いや
私自身だろうか?。
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冬に向かう海岸通り
手が届く距離を
少しだけ離れて歩く
松林に吹く海風は少し冷たく
揺れる松葉から差し込む光は
眩く
彼女の顔を時折
輝かせる
振り返る少年に
時々
彼女の
少し寂しげで不安そうな微笑は
彼女を想う少年の心をざわつかせる
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ドラマが過去を呼び起こす
「Nのために」
テレビで流れる誰かが誰かを想いやる
自分にとってのその誰が
走馬灯のように頭の中で駆け巡る
慌ただしさの中で
思い出した幼い初恋
少年の家庭は家業の倒産
少女の家庭は離婚
中学3年秋互いに居場所を無くしていた
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慌ただしさの中で
昨日のことさえ、忘れてしまう。そんな日常の中で
思い出すことは
貪り愛し合った愛でもなく
恋こがれそれでも叶わなかった恋でもなく
まだ、恋の形さえ分からないまま
回りの幸せの中で、どこか取り残されていた二人が
惹かれ合って
始まった背伸びした少年と少女の頃を思い出す。
似たようなそれも少しだけ歪んだ環境は
お互いを惹きつけ
言葉さえ気遣い相手を傷つけないように
ぽつり、ぽつりと話ながら学校帰りを歩く。
やがて、触れることも無いまま
互いの進む道が違う中で
自然と離れていった恋を
思い出す。