トウコは、毎日ポケモンたちの身体測定を行っている。科学の力はすごいもので、身長体重ていどの情報ならポケモン図鑑を向けるだけで測定できてしまうから手間にはならない。卵から孵ったばかりの子がすくすく育っていく様子が数字としてはっきりわかるのは楽しいし、何よりポケモンの健康管理になって体調不良の子にもすぐ気付けると旅の途中でポケモンブリーダーの人に教えてもらったからだ。
『ハッサム、はさみポケモン。タイプ、むし・はがね』
ポケモン図鑑がトウコの手持ちの情報を読み上げる。
「ハッサムって言うのね」
トウコは、戸惑うように自身のはさみを見つめていたハッサムに手を重ねた。
「進化おめでとう、ハッサム!」
主に満面の笑みで祝福され、ハッサムは慣れないはさみで鼻先をかく。
「あら?」
トウコは首を傾げると、背伸びしてハッサムと視線を合わせた。
「ストライクだったときは、同じくらいの身長だったけど……」
言われて、ハッサムは主の顔が以前よりずっと下にあることに気付く。
「大きくなったね、ハッサム!」
進化ってすごい!とトウコは興奮しきりだ。
トウコはポケモン図鑑でハッサムの現在の高さ・体重を読み取ると、手持ちのポケモンたちについて記録しているノートにメモをした。ストライクがハッサムに進化したことをきちんと書き添える。
「重さも倍以上になってる!」
はがねタイプだからかな、とトウコは興味津々の目でハッサムを見つめる。ハッサムは、自分が重くなっている気がしなかったので首を傾げて見つめ返した。
(重くなってる、というよりは……)
ハッサムはようやく慣れてきたはさみをカチカチと言わせながら、思った。
(逆に、軽くなったみたいだ)
胸が、とても軽い。ふわふわする。進化して翅は小さくなってしまったけど、これを震わせてどこまでも飛んでいけそうだ。主と一緒なら。
そんな他愛ないことを思いながら、ハッサムは軽く身をかがめた。ハッサムとトウコの視線が、丁度同じくらいの高さになる。トウコは笑ってハッサムの頭に腕を伸ばした。
「進化おめでとうね、ハッサム!」
再度の祝福の言葉とともに、抱きしめられる。
硬い外殻の表面を滑る主のやわらかな肌が、とても優しかった。