先陣を切るのは、共にパートナーに機動で勝る短刀のさよと薬研だ。
短刀同士でも機動で勝る薬研と、体力と打撃で勝るさよが肉薄する。
(ま、相手の土俵で勝負してやる義理はねえな)
まともに組み合っては分が悪い。薬研はあくまで牽制として短刀を振るうと、癖の悪い足を繰り出した。
少しくらいはあわてさせることができるかと思ったが、しかしさよも然る者。打ち合わせされた剣舞かなにかの様に鮮やかに宙返りをし、薬研の足払いを避けた。
その、宙に浮いて身動きが取れない状態を見逃す薬研ではない。
「うおおおッ」
両手を柄に添えて雄たけびを上げる。そしてさよの着地点目指して駆け寄って。
「薬研!!!」
瞬間、一期の声に焦点がさよからずれた。
空中で体勢を整えて降って来るさよ。その向こうに大柄な影が見えた。
(速いッ)
薙刀を振りかざした巨体。
踏み込みすぎたことを悟った薬研は、あわてて回避行動を取る。
誘われたのだと悟った。さよは敢えて速度を落として薬研と相対し、より自陣に近い位置で薬研を迎い討ったのだ。
四人の中で一番機動に劣る一期は、まだ薬研をフォローできる位置まで来ていない。
銀の軌跡が宙を凪ぐ。
薬研は大きく横に飛び退いた。地面を転がってできる限り距離を取る。立ち止まっては一貫の終わりだ。
そんな薬研とは離れた位置で、甲高い刃の噛み合う音が響いた。
「ぐうっ」
とっさの判断で太刀上げることに成功した一期は、目と鼻の先でギラつく青の炎を見た。
改めて両手に力をこめて太刀を押せば、小柄なさよはあっさりと引いて後ろに飛び退く。
岩融が薙刀を振った瞬間、一期は最悪の結果も考慮した。
しかし、岩融の刃が薬研を裂くことはなかった。岩融の薙刀は、未だ宙にいたさよを捕らえたのだ。
岩融の全霊の一振りを両の足で掴み、さよは勢いよく跳んだ。それは一筋の青い弾丸のごとく、一期に噛み付いた。防御が間に合ったのはまったくの偶然だ。あと一瞬、岩融の薙刀の軌跡の意図に気づかなければ、会心の一撃を食らうことになっていただろう。
なるほど、確かに岩融とさよという一撃必殺に乏しい組み合わせにとって、ある程度統率が高く全能力に優れた一期をどう攻略するかは、もっとも重視されるべき点だろう。
再び一期に向かって地を蹴ったさよに、一期は口角がつりあがるのを感じた。
「今の一薙ぎで薬研を落とさなかったこと、後悔しますぞ!」